臨死体験はもはやオカルトではなく「脳科学の分野」になった
古くから心臓発作や脳卒中など死の淵から蘇生した人々は、しばしば臨死体験を報告することが知られていました。
また興味深いことに臨死体験には一定の類似点があり、多くの生還者は
①自分のこれまでの人生が走馬灯となって駆け巡る
②思い出深い記憶がリアルな感覚をともなって鮮やかに再生される
③体外離脱(幽体離脱)のような自分を他者の視点からみる
といった特徴的な体験を報告します。
このことは臨死体験時には特定の脳活動の変化が起こり、生還者たちに同じような体験をさせている可能性を示唆します。
しかしどんな脳活動が臨死体験に特有の現象を引き起こすかは、ほとんど知られていませんでした。
そのため臨死体験は長年にわたり、科学ではなくオカルトの分野にあると考えられてきました。
ですが近年ではミシガン大学のボルジギン氏らの研究グループを中心にして、臨死体験の脳科学的な解明が急速に進んでいます。
たとえば、2013年にボルジギン氏らが行った研究(PNAS, 2013)では、麻酔によって昏睡しているラットを心停止させると30秒以内に強いガンマ波が発生し、意識の兆候を示したことが発見されました。
また2022年に発表された別の研究(Frontiers in Aging Neuroscience, 2022)では、死にゆく人間の脳波がはじめて詳細に記録され、マウスと同じくガンマ波のスパイクが観測されています。
ガンマ波は、意識・思考・記憶・夢など、脳が複数の領域を組み合わせて意識的な状況にあるときに発生するものです。
そこで研究チームは今回、助かる見込みのない4人の昏睡状態にある患者たちの脳波を測定しつつ、生命維持装置を停止させることにしました。
(※ 実験は家族の同意のもとに行われています。)
もし臨死体験が古くからの言い伝えの通り(上記の①~③)ならば、死ぬ間際の患者たちの脳にそれぞれの体験に類似する反応が起こるはずです。
果たして、死に向かう患者たちの脳では何が起こったでしょうか?