廃棄車両が不毛な海底の砂地に「海のオアシス」を作る!
さまざまな工程を経て車両は海に廃棄されますが、このプロジェクトでは車両を海に落としてからが本番です。
海底に沈んで固着した車両には、すぐに様々な海洋生物たちが棲みつきます。
車両の表面は人工物特有の滑らかさゆえに、藻類やフジツボが簡単に付着して成長・繁殖するのに最適だといいます。
こうして次第に車両は緑の藻に包まれていき、あちこちにフジツボがくっつく中で、それらを餌とする魚や甲殻類が次々に乗車を始めるのです。
やがて生物の多様なコミュニティが形成され、食物連鎖のネットワークが循環し始めることで、正真正銘の人工岩礁となります。
これはそれまで不毛だった海底の砂地に突如として”海のオアシス”が現れるようなものです。
そこに集まるのは、サンゴやフジツボ、カイメン、アオイガイの他に、スズキやマグロ、サバ、ヒラメなど多岐に渡ります。
地下鉄車両を受け入れたデラウェア州天然資源環境管理局のジェフリー・ティンスマン(Jeffrey Tinsman)氏は「人工岩礁で得られる餌の量は以前の砂地と比較すると、30平方センチメートルあたりで約400倍にも増えている」と指摘します。
また「泳ぎが速くない魚たちにとっては、餌場になると同時に、サメから身を隠すためのシェルターにもなっている」という。
小魚や甲殻類を狙った大物も集まるゆえに、人工岩礁は漁業関係者や釣りの愛好家にとってもメリットがあるのです。
これらの地下鉄車両は人工岩礁となった後も、海洋への悪影響がないかなど常に監視されています。
本プロジェクトの車両を海底に沈める試みはひとまず2010年で終了しており、今後ふたたび再開されるかどうかは不明です。
現在は、そこに定着した海洋生物たちを監視するフェーズになっており、上にあげた画像もそれを報告するものです。
もし海洋環境へも問題がなく、多くのメリットが得られるのであれば、他の国や地域でも似たようなプロジェクトの実施があり得るかもしれません。
とりあえず、不毛な土地に住んでいるお魚たちは新しい家ができることを喜んでくれるでしょう。