首を噛みちぎられて、胴体だけテイクアウトされていた?
シュピークマン氏が見つけたのは、約2億4200万年前に遡る2種のタニストロフェウスの首の化石です。
この2種は現在のスイスとイタリアの国境辺りに位置する浅い海に生息していました。
1つは体長1メートル半ほどの小型種で、エビなどの軟体動物を食べ、もう1つは体長6メートルに及ぶ大型種で、より大きな魚やイカを食べていたと見られます。
2種の標本はともに首が完全に切断された状態にありました。
そして詳しく分析した結果、1種は首の途中に噛み跡があり、もう1種では首の切断部に合致する形で噛み跡が見つかったのです。
このことから、タニストロフェウスは明らかに何者かによって長い首を狙われ、噛みちぎられていたことが分かりました。
さらに研究チームが注目したのは、首と骨の保存状態がきわめて良い点と、胴体の化石の痕跡が一切見つかっていない点です。
これはおそらく、捕食者が細長くて食べる部分のない首や頭は捨てて、肉付きのいい胴体部分を狙った可能性を示唆しています。
つまり、水中で噛みちぎられた首はそのまま海底に沈んで、傷つけられることなく化石化し、肉のたっぷりついた胴体だけが食べられたか、テイクアウトされたのでしょう。
捕食者にとってタニストロフェウスの首はワインのコルクのようなもので、それを取り除いた後は興味がなかったのかもしれません。
またタニストロフェウスの首を噛んだ犯人はまだ特定されていません。
特に小型種の方は犯人の候補がたくさんいて絞り切れませんが、大型種を捕食できるのは同チームのエウダルド・ムジャル氏いわく「非常に大きな海洋爬虫類のノトサウルスの線が濃厚だ」と述べています。
上の復元イメージも犯人をノトサウルスと仮定して描かれたものです。
今回の研究は「タニストロフェウスの首の長さが弱点だった」ことを証明しましたが、他方で、首の長い海洋爬虫類はその後も長きにわたって進化と繁栄を続けます。
となると、首の長さにもそれ相応の進化上のメリット(狩りに便利など)があったわけです。
首の長い海洋爬虫類たちは、そのメリットを享受する上で「首の長さが多少ウィークポイントになっても仕方ない」と考えていたのかもしれません。