シャーレに置いたはずの線虫が蓋に「瞬間移動」した⁈
線虫は世界中の至るところに拡散しています。
しかし体長1ミリにも満たず、手も足も羽もない彼らが長距離移動するには、他の生物に飛び乗る「ヒッチハイク」が必要です。
実際にこれまでの調査で、線虫は空を飛ぶハチにくっついて移動できることが知られています。
一方で、手も足も羽もないゆえに、線虫がどうやってハチの体に移動できるのかが分かりませんでした。
そんな中、研究チームは2019年に、シャーレ内の寒天培地に置いたはずの線虫が、なぜか数秒後にはシャーレの蓋に移動している不可思議な現象に直面しました。
培地から蓋までは距離にして30ミリ以上あり、体長1ミリ以下の線虫が歩いて移動するのに数秒ではききません。
そこで顕微鏡下で観察したところ、培地上に置いた線虫が突然姿を消し、次の瞬間、シャーレの蓋にくっついているという孫悟空ばりの瞬間移動を披露したのです。
さらにハイスピードカメラで観察した結果、線虫は瞬間移動の直前に姿勢を変えておらず、空中でもほぼ動いていないことから、何らかの外的な力が働いていることが伺えました。
しかしチームはその外力がすぐに「静電気」であることに気づきます。
静電気とは簡単にいうと、プラスに帯電した側とマイナスに帯電した側が引かれ合うことで発生する現象です。
そして先の研究で使っていたシャーレの素材は、電荷を帯びやすいポリスチレンだったのです。
反対にガラス製のシャーレは電荷を帯ず、実際に線虫を置いても飛び跳ねることはありませんでした。
チームは両素材のシャーレについて、プレート上と蓋の間の電位差を測定してみることに。
その結果、ガラス製の電位差はほぼゼロだったのに対し、ポリスチレン製では電位差が大きくなっていました。
つまり、ポリスチレンでは静電気が発生しやすい状態にあり、線虫はこれを動力源としてジャンプしていたのです。
そして線虫は、これを実験室内だけでなく自然界で他の生物に飛び移る際にも利用していることがわかってきました。