凍結と解凍の両方で臓器を台無しにする氷ができる
なぜ水の結晶化が問題なのか?
それは細胞内部の水が結晶化(固体化)すると、成長する氷の剣によって細胞がズタズタに引き裂かれてしまい、常温に戻したとしても生命活動が不可能になってしまうからです。
凍結保存されているイチゴを溶かしたことがある人なら、解凍しても生鮮食品売り場で売っている生イチゴには戻らず、黒ずんだドロドロの液体になってしまうのを知っているでしょう。
これは主に凍結時に発生する細胞破壊のせいです。
また水は結晶化すると体積が増えるため、全体を同時に冷やさないと臓器全体に無数の細かな亀裂が発生して毛細血管が寸断され、生き返ることをさらに困難にします。
鶏や肉の内臓(ホルモン)を解凍しても変わらず美味しく食べられるので問題ないように思えますが、生きた臓器として復活させるには毛細血管の保護は最優先事項の1つになります。
そのため過去に行われた研究では凍結防止剤を大量に使って氷の形成を邪魔しつつ、氷が形成される温度を超特急で過ぎ去ることで、水を液体のまま凍結させる「ガラス化」が試みられてきました。
「冷やすと最終的に氷ができてしまうのでは?」と思われるかもしれませんが、違います。
冷蔵庫などでは水が冷やされていくことで熱を失って氷になりますが、実は結晶化して分子が規則正しく並んだ氷になるには、ある程度の熱が水に残っている必要があるのです。
水を常温からマイナス150℃まで一気に奪ってしまう急速な冷凍をすると、水は氷の結晶を作る間もなく、ガラスのようにランダムな分子配列のまま固めることが可能になります。
ガラス化した水は分子が規則正しくならんでいないため、氷の結晶のように細胞を傷つけることはありません。
そのため現在、精子や卵子を凍結保存する場合にもガラス化する方法が主流となっています。
ガラス化は臓器を生きたまま凍結保存する最善の方法と言えるでしょう。
実際、過去に行われた臓器の凍結保存の研究でも、ガラス化によって細胞を傷つけずに臓器を凍らせることに成功しています。
しかし移植される臓器は「冷やされる段階」と「解凍される段階」の2つで、水が結晶化して氷になる温度を通り過ぎる必要があります。
そして現在に至るまで凍結保存された臓器の移植に失敗してきたのは、この解凍を素早く行うことができなかったからです。
鶏肉や牛肉でもしばしば、凍らせるより温めるほうが時間がかかります。
急速凍結させるにはマイナス150℃という猛烈な低温を使って一気に冷やしますが、解凍では逆に100℃、150℃という高熱を使うわけにはいきません。
そんなことをすれば、出来上がるのは移植用臓器ではなくモツ鍋になってしまうからです。
そのため解凍には時間がかかり、結果として氷ができる温度帯にも長時間さらされて、氷の発生と臓器の損傷が起こってしまいました。
つまり「上手く凍結できても上手く解凍できない」状態にあったのです。
そこで今回ミネソタ大学の研究者たちは急速解凍を可能にする新たな方法を開発しました。