「鉄のナノ粒子」と「電磁波」で急速解凍を実現する
どんな方法で急速解凍を実現したのか?
答えはナノ粒子と電磁波にありました。
研究ではまずラットから腎臓の摘出(手順①)が行われ、次に腎臓の血管に凍結防止剤に鉄ナノ粒子を加えたものを流し込みました(手順②)。
ラット腎臓に凍結防止剤と鉄ナノ粒子が十分に浸透すると、ラットの腎臓は黒ずんでくると、いよいよ急速凍結がはじまります。
黒ずんだラットの腎臓は液体窒素によってマイナス150℃まで一気に冷やされ、ガラス化させられます(手順③)。
研究ではラット腎臓の凍結された状態で100日間保存されました(手順④)。
ここまでは、鉄ナノ粒子を加えた以外は、大きな差はありません。
ですが100日が経過しいよいよ解凍となると、研究者たちは冷えたラット腎臓をらせん状のコイルの中心に配置して交流電流を流して電磁波を発生させ、さらに正極と負極を毎秒36万回反転させました(手順⑤)。
こうすることでラット腎臓内の鉄ナノ粒子が激しく振動して熱を発生させ、腎臓全体を均等かつ90秒という極めて短期間に急速解凍が行われます。
すると腎臓細胞を傷つけずに生命活動が再開しはじめます。
腎臓が解凍されると研究者たちは腎臓の血管を灌流装置に繋ぎ、腎臓内部の凍結防止剤と鉄ナノ粒子の洗い出しが行われました(手順⑥)。
凍結防止剤も鉄ナノ粒子もガラス化している細胞には無毒ですが、生きている細胞には毒となるので洗い出さなければなりません。
凍結防止剤と鉄ナノ粒子が洗い出されると、腎臓は摘出直後のような新鮮な色合いを取り戻していきました。
最後に研究者たちはあらかじめ腎臓を取り除いた5匹のラットに、解凍された腎臓を移植しました(手順⑦)。
もし移植された腎臓が上手く働かなければ、移植されたラットたちの命は失われるでしょう。
しかし幸いなことに移植された腎臓は徐々に機能を蘇らせていき、3週間には移植を受けたラットたちの腎臓にかかわる数値は、正常なラットと変わらない水準に達しました。
この結果は、凍結保存された腎臓を100日間保存し解凍して移植する「摘出➔凍結➔保存➔解凍➔移植」という全ての過程を実現できたことを示します。
研究者たちは現在、同様の凍結・解凍の実験をより大きく人間と似たサイズを持つ豚の臓器で行う準備を行っているとのこと。
鉄ナノ粒子と電磁波を使った方法は基本的にサイズの制約を受けないため、あらゆる臓器の素早く均質な解答ができると考えられます。
もし豚などの臓器で上手くいけば、早ければ1、2年以内に人間の臓器を使ったテストを開始されとのこと。
ただテストを行うには「移植に使える臓器」を科学実験に使うことになり、1個の臓器でテストを行うたびに、救えない命を1人うみだすことになります。
また凍結保存された臓器は、基本的には新鮮な臓器の性能には及びません。
新鮮な腎臓を移植された場合、ラットの腎臓機能は直ぐに再開しますが、凍結保存された腎臓を使った今回のケースでは、正常な機能を回復するまで3週間のタイムラグがありました。
また腎臓のダメージレベルを比較したところ、やはり凍結保存されていた腎臓のほうが新鮮な腎臓に比べてダメージの蓄積が多くなっていることがわかりました。
また人間での臨床試験を行うには、新鮮な臓器の提供を受けられる可能性のある患者に、凍結保存された臓器を移植するリスクを背負ってもらうことになります。
ただ臓器の凍結保存法が確立され臓器バングの運用がはじまれば、その恩恵も絶大なのもになるのも確実です。
臓器提供の意思表示がされている場合、亡くなった人のあらゆる消化管、骨髄、神経系、皮膚、四肢、眼球、筋肉、生殖器、靭帯などが時間の制限なしに凍結保管され、1つの命が無数の人々を救うことになるからです。
そうなれば新鮮な臓器を移植するケースは「贅沢」なものになるかもしれません。