ドーナツ型に穴のあいた岩石を発見!
パーサヴィアランスは2020年7月30日に打ち上げられ、2021年2月18日から火星上での活動を開始しました。
主な目的は、北半球の大シルチス台地にある「ジェゼロクレーター」での探査とサンプル回収です。
直径約49キロに及ぶジェゼロクレーターには広大な三角州の地形があり、そこの堆積物に粘土が多いことから過去に洪水が起こったと目されています。
実際、数十億年前の火星には川や湖が豊富に存在したことが分かっており、その跡地を調べることで太古の火星生命体の痕跡が見つかるのではないかと期待されているのです。
しかし、パーサヴィアランスが独りせっせと土壌サンプルを回収する中で見つけたのは、思いもよらぬ摩訶不思議な岩石でした。
茶色い砂地の広がる荒野に「ドーナツ型の岩石」がぽつねんと横たわっていたのです。
この画像はパーサヴィアランスのミッション開始から832日目に当たる2023年6月22日に、ボディに搭載したスーパーカムで撮影されました。
確かに、岩石の中央部分がくり抜かれたようになっているのが分かりますね。
実は同じドーナツ型の岩石は2023年4月15日にも一度、パーサヴィアランスによって撮影されていました。
ただそのときは約400メートルというかなり離れた距離からの撮影だったので、はっきりとドーナツ型になっているかどうかが判然としていませんでした。
こちらがその画像です。
今回の撮影はそのときよりグッと接近しているのでドーナツ型がはっきりと見えますが、その正確な構造やサイズなどはもっと近づかないと詳しく特定できないといいます。
しかし何があると岩石の中央だけがくり抜かれる状態になるのでしょうか?
ドーナツ化したのは「火星の風」による浸食?
研究者たちは岩石がドーナツ型になった理由について、「地球上の岩石と同じように長期間にわたって浸食された結果である」と推測しています。
ただし火星では水を媒介とした浸食があり得ないため、これは風や塵によって引き起こされた風化だと考えられます。
火星では1年(約687日)の間に局地的な嵐が発生しますが、数年に一度の間隔で全球に及ぶ大規模な砂嵐に見舞われます。
しかもその砂嵐は数カ月にわたって続くという。
こうした風は砂粒や小さな岩石を舞い上げて、岩石の表面にぶつけることで、岩石を侵食していきます。
ただこうした風食の作用は岩石表面に均一に起きるわけではありません。
もともと岩石中央にくぼみなどがあった場合、そこに風食の影響が集中して中央部分だけをくり抜くよに侵食していく場合があります。
このドーナツ型の岩石はおそらく、そうした砂嵐が発生した際の度重なる浸食によって偶然にもこのような奇妙な形になったと思われます。
また周囲に散らばる小さな破片は、元々この岩石の一部だったものが風食の影響で割れて掻き出されたものかもしれません。
こうした影響は数千年の長い年月をかけて少しずつ進んだものだと考えられます。
それから研究者らは、この岩石が火星由来のものではなく、宇宙空間から降ってきた隕石の可能性も捨てきれないと指摘します。
というのも、地球では厚い大気圏に突入した際にほとんどの隕石が燃え尽きますが、火星は大気層が薄いために隕石の多くが難なく地表まで達することがよくあるからです。
加えて、降水による浸食もないため、きれいな状態で保存されることも多いといいます。
今回のドーナツ型岩石が本当に宇宙から飛来したものかどうかは、サンプルの回収と分析によって明らかになるでしょう。
しかし火星に元からあった岩石にせよ、宇宙から降ってきた隕石にせよ、風化によってドーナツ型になったと見て間違いないようです。