アジア出身が移住できて、オーストラリア出身が残留するワケは?
チームは今回、オーストラリア大陸の移動後に起こった気候変動のプロセスを復元し、さらに現在ウォレス線の周辺地域で記録されている約2万種の哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類の生態に関するデータセットを組み合わせました。
その結果、ウォレス線を境とした移住と残留の非対称性は「寒冷化」で説明しうることが示されたのです。
まず、オーストラリアが南極大陸から分離したとき、今日では「南極環流(Antarctic Circumpolar Current)」として知られる、南極大陸の周りを取り囲むように流れる海流ができました。
この冷たい海流が生じたことで地球規模の寒冷化が起こり、オーストラリアの乾燥が進んだのです。
ところがその中にあって、動物たちが飛び石として利用していたインドネシア諸島は、温暖で湿潤な熱帯気候を保っていたことが分かりました。
そのため、アジアの熱帯雨林に住んでいた動物たちは、同じ環境のインドネシア諸島にすんなり移動することができたのです。
ここで研究者は重要な点として、熱帯出身の動物は「環境変化への適応力」に長けていることを指摘します。
温暖湿潤な熱帯雨林は生き物たちのパラダイスであり、多種多様な生物群が繁栄しているため、競争や共存への圧力に耐えられるよう進化スピードが早くなっているのです。
よって、ウォレス線までたどり着いたアジア産の動物たちは、熱帯より冷涼で乾燥した環境への適応が早く、オーストラリアに渡ることができたと考えられます。
他方で、これはオーストラリア出身の動物にこれは当てはまりませんでした。
彼らは長く続く乾燥した環境の中で進化してきたため、干ばつへの耐性や夜間活動の獲得など、非常に特殊な進化で環境へ適応しなければならなかったのです。
この生態は熱帯出身の動物とは違い、柔軟に変化するものではありませんでした。
それゆえ、彼らはオーストラリアから外にはほとんど出ることができなかったと考えられます。
気候変動が落ち着いた今日でも、カンガルーやコアラがオーストラリアを脱出できていないのを見ると、進化の中で醸成された生態はかなり頑健なシステムのようです。
(ちなみに一部のカンガルーはニューギニア島にも分布している)
スキールズ氏は、この結果を受けて「将来における動物の移動予測に役立つとともに、気候変動が世界の生物多様性のパターンに影響を与え続ける中で、どの種が新しい環境に適応するのに長けているかを予測するのにも活用できるでしょう」と話しています。