なぜ恐怖を感じると、逃走反応が起きるのか?
これまでの研究で、あらゆる生物の脳内には「恐怖」を司る領域と「視覚刺激」を処理する領域がそれぞれ別に存在することが分かっています。
ですが、恐怖に陥った脳がどのような神経メカニズムを介して、普段は平気な視覚刺激からの逃走を促すのかが不明でした。
この謎を明らかにすべく、研究チームは「ショウジョウバエ」に協力してもらいました。
一見すると、ヒトとあまりにかけ離れた存在に思えますが、彼らの脳は「運動制御・感覚受容・記憶・学習」など、私たちの脳と同じ機能を持っています。
また恐怖のような不快感情を生み出す脳メカニズムも、ヒトとショウジョウバエで共通しているのです。
そこで本研究では、ショウジョウバエをモデルとして「恐怖心による視覚刺激からの逃走」の仕組みを調べました。
ハエも恐怖に陥ると、普段は平気な物にビビり始める
チームはまず、ショウジョウバエに恐怖刺激を与えると、視覚刺激への反応がどう変わるかを確かめました。
実験では、ハエに衝撃波を当てることで恐怖を誘発し、その後に視覚刺激(ここでは天敵のクモと同サイズの黒い四角形)をモニター上に映して、ハエに提示します。
すると、平常時のハエは視覚刺激にまったく無反応だったのに対し、恐怖状態に陥ったハエは視覚刺激から反対方向へと動く明確な逃走反応を示したのです。
つまり、ショウジョウバエも恐怖心を抱くと、普段はヘッチャラな視覚情報が怖くなって、その場から逃げ去る反応を共有していました。
では、こうしたビビり逃走はどの神経細胞によって実行されるのでしょうか?
チームは次にそれを明らかにしました。