「他者の報酬」は脳内のどこで処理されるのか?
人間であれば誰でも、他人の得るものがどうしても気になるものです。
例えば、仕事内容は同じなのに、自分より同僚の給料が多いと分かれば、嫉妬したり上司に不信感を抱いたりして、仕事の意欲や生産性が落ちてしまうでしょう。
確かに給料や貯金額には、その価値を決める絶対的な基準がないので、自分の稼ぎや蓄えが良いかどうかは、他人や世間一般との比較によって決まることが多いです。
このように他者との比較で決まる報酬の価値を「相対的価値」と呼びます。
では「他者の報酬」に関する情報は脳内のどこで処理されているのでしょうか?
サルも「他者の報酬」が気になる
これまでの研究により、次の3つのことが明らかになっています。
① サルもヒトと同じように「他者の報酬」を気にする
② 大脳皮質の「内側前頭前野(※)」に自己または他者の報酬の情報を処理する神経細胞がある
(※ 前頭葉の最前部に位置する脳領域で、左右の脳が接する内側部分。社会的な認知機能を担う領域のひとつ)
③ 脳幹に近い「視床下部外側野(※)」に報酬の相対的価値を処理する神経細胞がある
(※ 摂食に加えて睡眠や覚醒など、さまざまな生理機能の調節に関係する領域)
以上を踏まえると「内側前頭前野から視床下部外側野にいたる神経回路は、報酬の相対的価値の計算に深く関わっており、この回路を阻害すれば、サルは他者の報酬を気にしなくなるのではないか」との仮説が立てられます。
しかし、この神経回路が実際に「相対的価値」の認識に影響を与えて、サルの行動を変化させるかどうかは不明でした。
そこでチームは、実際に神経回路の活動を遮断することで、サルの行動に変化が見られるかどうかを検証しました。