自己選択と安全性が確保されたうえでの恐怖が重要な要因か
今回の研究結果は、自分で選択した恐怖を体験することで、気分を改善し、脅威を感じるような状況でも神経活動を落ち着かせることができることを示しています。
過去の研究では、「なぜ恐怖体験を好む人がいるのか」という問いに対し、恐怖感情に敏感になることで将来の恐怖体験を回避するために、あえて脅威を感じるような体験を経験するという仮説などが提案されてきました。
今回の結果は、恐怖体験を経験することで、将来獲得できる気分の改善や脅威刺激に対する耐性の向上を期待して、ホラー映画やバンジージャンプのような恐怖体験を積極的に行う可能性を示唆しています。
自発的ネガティブ体験の精神的なメリットが生じるのは、①自己選択で恐怖体験を行なっている点と②確保された安全性の中で恐怖を体験している点の2つの理由があると考えられています。
自己選択に関しては、過去の研究でもネガティブな情報に自分自身で求めるような自発的関与がある場合には、ポジティブな情報を処理したときと同じ脳の領域が活性化することが報告されています。
今回の研究では、お化け屋敷に行くことを自分で決めることで個人的な目標と同じように感じ、完了に伴い、達成感を感じたのだろうと考えられています。
安全性の中での恐怖を感じることに関しては、普段の大きな感情の起伏が起きないような日常生活の中に、あえて感情の波を起こすことで楽しみを得ているのだろうと考えられます。
研究チームは「私たちは安全な場所にいるとき、経験した脅威や危険が、喜びや幸福などの興奮反応と同じように解釈することができる」と述べています。
ホラー映画をよく見る人はパンデミックからの回復が早い
お化け屋敷のような一時的に高い覚醒度を伴う状況以外にも、ホラー映画を定期的に多くみるような自発的ネガティブ体験であっても、精神的にメリットのある恩恵が受けられることが分かっています。
2021年の「Personality and individual differences」に投稿された、シカゴ大学のコルタン・スクリブナー氏(Coltan Scrivner)らの研究では、ホラーやパンデミックなどを題材とした映画の視聴頻度と新型コロナウィルス感染症のパンデミックからの心理的な状態の回復度合いの関係性を調べています。
調査の結果、ホラー映画を多く見る人は新型コロナウィルス感染症のパンデミック下の心理的な苦痛を感じにくく、パンデミックをテーマにした映画を多く見る人は新型コロナウィルス感染症のパンデミック下で感じた精神的なストレスからの回復が早いことが確認されました。
これらの結果は、怖い映画を見ることは現実場面での恐怖や脅威に対するストレス耐性を強くする効果を持つことを意味しています。
研究チームは「本や映画、さらにはゲームなどの物語を楽しむことが単なる娯楽ではなく、将来の課題に備えるのに役立つ方法のひとつである」と述べています。
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