6件のシミュレーションと7件の再現実験の結果が発表された
多くの専門家は、当然ながら懐疑的でした。
というのも鉛アパタイトがそもそも電導性に問題を持つ物質だからです。
小学校のころの実験で銅や鉛やアルミ、ゴムなどに電気が通るかを実験した人もいるかと思いますが、鉛はあまり電気を通してくれる金属ではありません。
超伝導物質は電気の抵抗がないことを特徴としており、鉛アパタイトは超伝導物質の出発点としてはあまり相応しくなかったからです。
材料の混合は、元となる素材の一部が追加される素材に置き換え、電子の流れを変えるために行われます。
しかし鉛原子と銅原子の電子分布はよく似ており、鉛の原子配列の一部を銅に置き換えたところで、電気的な性質に影響を与えるとは思えませんでした。
一方、量子エネルギーセンター研究所の研究者たちは、銅を加えたことで材料内で連なっている鉛の鎖が歪んで、超伝導を起こす性質を獲得したと述べています。
そこで米国のローレンス・バークレー国立研究所や中国の藩陽国立材料科学研究所はLK-99内部の電子構造をシミュレートしてみました。
すると驚いたことに、LK-99には超伝導物質に共通する、電子パターンを持っている可能性があることがわかりました。
同様の「超伝導物質の可能性アリ」とする計算結果は米国のコロラド大学、中国の北西大学、オーストリアのウィーン工科大学、英国のキング・スカレッジ・ロンドンなど複数の研究機関でも確認されています。
さらに世界中の研究機関で11件の再現実験が行われ7件で結果が発表。
そのうちの3件で興味深い結果が得られました。
たとえば中国の華中科技大学と米国の南カリフォルニア大学の2つの実験では作成されたLK-99に下から磁気をあてたところ、浮上したことが確認されました。
また中国の東南大学の研究者たちはマイナス163.15℃において、LK-99に超伝導性がみられたと発表しました。
マイナス163℃は極めて低温ですが、超伝導を起こす温度としてはかなり高くなっています。
ただ興味深い結果が得られたのはこの3件のみであり、インドの国立物理学研究所や中国の北航大学などが行った他4件の再現実験については超伝導性を示すいかなる兆候も観測できなかったと報告されています。
このような結果にばらつきが存在する理由として研究者たちは、サンプルの状態に個体差がある可能性について言及しています。
鉛アパタイト内部に形成される鉛の鎖の一部が、適切に銅に置き換えられる必要がありますが、これは極めて困難だからです。