新しい鼻を腕に縫い付けて「育てる」ことに成功!
顔の中で鼻は最も美的感覚に影響を与える部位です。
小説家たちも美人の容貌を表現する際には、鼻の形を称える文章をひねり出すのに苦労してきました。
しかしフランス人女性(仮称:リリア)は今から9年前、鼻腔がんのために、美しい鼻を切り落とさなければなりませんでした。
鼻の喪失は容貌に決定的な影響を与えるため、リリアのようなケースではしばしばエピテーゼとよばれるシリコン製の仮面で顔を覆う手段がとられます。
ですがリリアにとってエピテーゼは耐えられないものでした。
そのためリリアは形成外科に自身の皮膚を移植して鼻を作るように依頼しました。
しかし新たな鼻が彼女の顔に長くとどまることはありませんでした。
その原因は新たな鼻に生きた組織を維持するだけの十分な血液が供給できなかったからです。
そこで今回、トゥールーズ大学病院の医師たちは、3Dプリント技術で作られた「鼻の骨」の周りに血管を備えた「生きている鼻」を作る新たな手法を試すことにしました。
「生きている鼻」を作るにはまず、材料として血管を備えた皮膚が必要になります。
血管を備えた皮膚ならば顔の血管に縫合することで、新たな場所でも生命を維持できます。
しかし平面的な皮膚を移植しても、鼻にはな得ません。
そこで医師たちは最初にリリアの元々の鼻の形にあわせた「鼻の骨」ともいうべき部分を3Dプリントで作りました。
次にリリアの腕の皮膚を血管と一緒に大きく剥がして「鼻の骨」を覆うように縫合しました。
こうすることで、血の通った腕の皮膚を、立体的な鼻の形にあわせて配置することができました。
「鼻の骨」は生体適合性が高い多孔質のセラミックで構成されているおり、腕の傷を治すために集まってきた細胞たちをとらえることで、体の一部のフリをすることが可能です。
そして2カ月が過ぎると、腕に埋め込まれた鼻の骨は外側に被されている腕の皮膚と完全に癒着します。
また鼻の骨に癒着した皮膚は腕の皮膚にもともとあった血管が維持されていました。
結果、血管系を完備した「鼻の形をした腕の皮膚」が完成します。
この新たな鼻の再現度は非常に高く、柔らかい皮膚を鼻の穴部分に引き込むことで穴の中まで完全に血の通った皮膚で覆われています。
腕にある鼻が十分に育ったのを確認すると、腕から鼻を切り落とし、リリアの顔面への移植がはじまりました。
顔面への移植で最も困難だったのが、鼻の骨の周りに形成された「腕の皮膚の血管」と「顔の血管」の縫合でした。
しかし6時間に及ぶ縫合手術は成功し、リリアの顔に再び血の通った生きた鼻が戻ってきました。
新たな鼻を獲得してからしばらくして、リリアは自分が再びコーヒーの香りを感じていることに気が付きました。
鼻には入ってくる空気に湿度を与えるという大切な機能があります。
長い間、鼻を失っていたリリアは乾燥した空気を直接吸い込んでいたため、嗅覚神経がある粘膜が乾いてしまっており、嗅覚を感じにくくなっていました。
しかし生きている皮膚で作られた鼻と鼻の穴を手に入れたことで、吸い込まれる空気が再び湿ったものになり、リリアの嗅覚を復活させたのです。
「血管を含んだ皮膚を好きな形に変化させる技術」は今後顔面を含むあらゆる体の部位の再建に役立つでしょう。
もしこの技術が進歩すれば、義手や義足の表面を神経と血が通った皮膚で覆うことも可能になるかもしれません。