「友情」か「ごちそう」か、究極の2択ゲーム
まずチームは、群れに属する個体をAかBいずれかのグループにランダムに振り分けました。
それぞれの個体には、餌箱の鍵となるタグが付けられており、これにはA・Bのグループに対応した2種類が存在しています。
(また各個体は長年の観察により、どのペアが親友同士で、どのペアが家族関係にあるのかが分かっている)
そして次に、2つの餌箱を隣同士で設置しました(下図を参照)。
それぞれの箱には鍵のかかったドアが2つ付いており、一方には普通の餌である「穀物」が、もう一方には大好物である「乾燥ミールワーム」が入っています。
ニシコクマルガラスにとって穀物は平凡な食事、ミールワームはごちそうです。
実際のゲームでは、鳥が一羽で餌箱の前の台座に立つと(AかB)、チップが反応して平凡な餌である穀物のドアだけが開きます。
他方で、同じグループの鳥と一緒に2つの餌箱の台座に立つと(AAかBB)、ごちそうであるミールワームの扉が開かれます。
しかし以前から付き合いの長い親友同士だからといって、AとBの2羽が来てもごちそうの扉は開かれません。
高い報酬の鍵を開けるには、見ず知らずの相手でも同じグループの個体とペアを作る必要があります。
つまり、同じグループに親友がいない場合、ごちそうを得るには古い友人との縁を切って、新しい友達とペアになければならないのです。
ここで試されたのは「友情」か「報酬」かの究極の2択でした。
「友情は裏切る」が「家族の絆」は尊ぶ
実験結果は非常に興味深いものとなりました。
まずニシコクマルガラスたちは非常に賢く戦略的で、同じグループの鳥とペアで台座に立てば、ごちそうの扉が開くことを学習すると、その相手と新たな友情関係を積極的に築き始めたのです。
その代わり、かつての親友とは縁を切り、疎遠になっていました。
これはニシコクマルガラスにとって、目先のごちそうが友情より大事であることを示しています。
ところが実験を続ける中で、縁の切れない例外が見つかりました。
それが「家族」です。
夫婦・親子・兄弟姉妹においても、別々のグループに振り分けられている限り、一緒に餌場に来てもごちそうの扉は開かれず、平凡な食事の方しか得られません。
しかし、その事実を学習して知っているはずなのに、ニシコクマルガラスたちが家族との縁を切ることはなかったのです。
夫婦・親子・兄弟姉妹はAとBの別グループであっても、変わらず一緒に行動して社会的関係を維持していました。
これは彼らにとって家族との絆は友情やごちそうを上回ることを意味します。
この結果を受けて研究チームは、ニシコクマルガラスにおいて、友情は目先の利益を得るための”短期的な関係”として有利に働き、家族との絆は生涯にわたって価値のある”長期的な関係”として重要である可能性が高いと指摘しました。
もし彼らの心が聞けるなら、「家族と一緒なら質素な食事でも平気です」と答えるかもしれません。