「その手紙AIが書きました」で、どう感じるか検証
今回の実験では、一般の成人男女208人をオンライン上で募り、「テイラー(Taylor)」という架空の人物と長年の親友関係にある設定で、手紙のやり取りをしてもらいました。
手紙のテーマとして、参加者は以下の3つのシナリオのいずれかが与えられています。
(1)ストレスで心身が参っているときテイラーに悩みを相談する(テイラーから助けの手紙が来る)
(2)同僚との仲違いについてテイラーにアドバイスを求める(テイラーからアドバイスの手紙が来る)
(3)自分の誕生日が近づいていることを、テイラーに教える(テイラーからお祝いの手紙が来る)
これらのテーマに沿って、それぞれの参加者は指定されたコンピューター画面のテキストボックスに、現在の自分の状況をテイラーに説明する手紙を書きました。
その後、しばらくして参加者全員にテイラーから返事が届いたと伝えました。
ここでは手紙の書かれ方を以下の3パターンに分け、そのいずれかを参加者にランダムに振り分けています。
(1)手紙の草稿はテイラー自身が行ったが、文章の加筆修正にAIアシスタントが使われた場合
(2)手紙の草稿はテイラー自身が行ったが、文章の加筆修正を他人に手伝ってもらった場合
(3)手紙の草稿も加筆修正もすべてテイラー自身が行った場合
いずれの手紙も実験者が用意したものであり、内容については参加者ごとに差異をつけないようにしています。要は手紙がどのように書かれたかという情報だけを変えています。
その結果、手紙の内容は同じであるにも関わらず、参加者の手紙に対する評価は書かれ方によって大きく変動しました。
まず、手紙への満足度や信頼度が最も高くなっていたのは、テイラー自身がすべての内容を書いたときでした。
これは十分に予想できる結果です。
これに比べて、AIアシスタントによって加筆修正された手紙を受け取った参加者は、テイラーのしたことが不適切であり、彼との友人関係に不信感を抱くようになっていました。
「テイラーはあなたのことを親友だと思っているか」という質問についても参加者は低く評価しています。
参加者がAIを使った対応を好まない理由として、コミュニケーション学を専門とする研究主任のビンジー・リュー(Bingjie Liu)氏は、手紙のような個人的なメッセージ内容を作成する上で、テクノロジーを使うことは不適切であり、AIには(人間のような優れた)心がないと考えるからではないかと指摘しています。
しかしその場合、テクノロジーではない、心を持つ他人が加筆修正に協力した場合は、悪い印象を抱かないのではないでしょうか? しかし今回の研究では、他人が協力した手紙でも参加者は同様に否定的な反応を示しました。
その理由については、個人的な手紙の執筆に他人の力を借りることで楽をしようとしている、ひいては自分たちの友人関係をそこまで大切に思っていない、自分の悩みに真摯に対応していないと感じてしまうからだと研究者は述べています。
これはAIアシスタントを使った場合にも同じことが言えるでしょう。
ただ他人の手を借りた場合、AIのときとは異なり親友だからこそ打ち明けた悩みを第三者に見せていることが、信頼度を落とす要因になっている可能性があります。
以上を受けて、リュー氏は「人間関係には自らの努力や労力を傾けることが非常に重要です」と改めて主張します。
「人々はあなたが友情にどれだけ熱心であるかを知りたがっており、もしあなたがAIを使って近道をするならば、当然それは良いことではありません」
しかしその点でいうと、自分で書いた手紙の中に「他人の文章」を引用することは、AIのような楽には当てはまらないのではないでしょうか?
私たちは時に、心に響いた小説の一節や好きなキャラクターの名ゼリフなどを引用して相手に気持ちを伝えることがあります。
しかし、ここでは書き手が相手の悩みに親身になって、自分も同じような状況に陥ったときに救いとなった文章を探して引用していることが、大きく異なるのだと考えられます。
これはAIアシスタントを使うような労力の削減とは正反対です。
もちろん現時点で、友人宛ての手紙やメッセージにAIを使っている人は少数派でしょう。
しかし今後は、手書きの手紙を送る機会がどんどん減っているのに伴い、文章のやり取りはますますデジタルが主軸になるはずです。
その中で、ワードの自動変換が普及しているように、AIアシスタントが「文章を加筆修正しましょうか?」と自然に聞いてくるようになるかもしれません。
AIのおかげで確かに文章は読みやすく、全体の見栄えもよくなるはずです。
ただし、それであなたの想いが伝わるかは分かりません。
想いが伝わる手紙とは結局のところ、文章の上手い下手ではなく、どれだけ心を裸にして書けるかどうかにかかっているのではないでしょうか。