税金という搾取が生み出す「社会的ジレンマ」
社会的な合理性と個人の合理性が噛み合わずうまくいかなくなることを「社会的ジレンマ」と言います。
税金の構造は社会的ジレンマの例としてよく挙げられます。
これには税金を支払うことからスタートする「搾取の連鎖」が深く関わっています。
本来、税金の目的は社会をよりよくすることです。
行政サービスやインフラの整備、セーフティーネット(社会保障)の充実など、私たちの生活がよりよくなるように使われています。
しかし、税金による豊かさを大なり小なり感じていたとしても、税金を払う行為に「損をしている」という気持ちになる人は多いでしょう。
特に経営者など、税金を多く納めている人は「どこかからこの金額を補填しなければ」という心理が働くはずです。
とはいえ、もちろん国から税金を取り戻すことはできません。
搾取の連鎖の心理を考えれば、自分より下の立場の人から多くの利益を吸い上げようとするはずです。
社員の給与を減らしたり、顧客からの利益を多く取ろうとしたりする人もいるかもしれません。
しかしそうすると搾取された人は自分より下の人からどんどん搾取しようとし、搾取の連鎖が起こります。
搾取の連鎖が続けば、下層と人々はどんどん貧困が進んでいきます。
そしてその貧困層を救う資金は税金で、貧困層が増えれば増えるほど税金は上がっていってしまうのです。
税金を「損だ」と感じてしまう層がいる限り、この負のスパイラルから抜け出すことはできません。
搾取の連鎖を招く心理は誰にでもあるもの
「自分は税金が必要なものだと理解しているし、自分が搾取されたからといって関係ない人に迷惑をかけようとは思わない。」
そのように考える人もいるかもしれません。
しかし例えば、ババ抜きでババを引いてしまったとき、あなたはババを引かせた人ではなくあなたのカードを引く別の人物に対して「ババを押し付けたい」と思うはずです。
人は誰でも大なり小なり「搾取の連鎖」を招く心を持っています。
にもかかわらず、これまで人間が社会を構築する上で「与える」もしくは「助け合う」ことに対する研究は多く行われてきましたが、「奪う」ことに重点を置いた研究は行われてきませんでした。
税金の例からもわかるように、社会の仕組みを整えるには「搾取の連鎖」についても十分な知見を集め、これをいかに少なくするかについても議論していかなければならないでしょう。
今後も今回紹介したような人間のネガティブな部分を解き明かす研究が進んでいくといいですね。