動物たちには同性間の性行動は必要なツールかもしれない
2019年に行なわれた研究では、かつて動物たちは現在のように特定の相手だけを選ばず、異性・同性関わらず全ての個体と性行動を行っていた可能性が示唆されていました。これは、性に関する明確な特徴が進化する前の行動として考えられます。
一方、ゴメス博士らの研究は、哺乳類の同性間の性行動が、先祖から共有されてきた特徴とは考えにくいという結果を示しています。
今回の研究では、同性間性行動に関する報告されている割合を、進化系統樹上に組み込み共通先祖に同性間性行動があったかどうかの確率を推測しています。
報告データにばらつきがあることから、研究者はこの方法では曖昧な結果しか得られない可能性を考えていましたが、分析結果を比較すると、同性間の性的行動が存在すると考えられる箇所は、存在しない箇所よりも新しいことがわかりました。
この結果は、多くのグループの古い先祖には、同性間の性的行動はおそらく存在しなかった可能性を示唆しています。
哺乳類の起源からヒト科の先祖までの変化を示す図では、同性間の性的行動の確率が、進化の大部分の歴史の中で低いままであり、古い時代のサルの起源から増加が始まり、類人猿の起源で大幅に高くなったことが示されています。
つまり動物たちは社会を平和に発展させていく中で、必要に迫られた時に同性間の性行動に及ぶのかもしれません。
ハーバード大学の霊長類学者のクリスティン・ウェッブ氏は今回の研究結果を見て、「社会的にピリピリした状況で、同性間の性行動はその緊張を和らげる効果があるようだ」と指摘しています。
また、「社会的な結びつきの強化、争いの解消、社会的なストレスを管理する方法として、同性間の性行動もまたその中で役立っているのかもしれない」とも述べています。
しかし、ゴメス博士ら研究チームは、動物の性行動の理論を人間の行動にそのまま適用することについては慎重であるべきだと強調しています。
動物の性行動を私たちの社会的な価値観や基準で評価することは、動物の性行動を正確に理解していくうえで障害になるかもしれません。
また、動物たちの間では同性間の性行動が社会的な関係の強化や維持に役立っていると考えられますが、人間に置き換えてみるとそうはいかないでしょう。
人間の場合、同性間の性行動は性的指向(特定の状況やパターン以外興奮しない)の問題となり、同性間の性行動を好む人は、基本的には同性以外を対象としなくなる傾向があります。
しかし動物たちが行う同性間の性行動については、性的指向やそれに伴う自身のアイデンティティ、性的指向のカテゴリ(同性愛コミュニティ)など性的な好みを示すものではありません。
そのため動物の行う同性間の性行動は、自然界で適応していくために何らかの意味を持つツールとして利用されている可能性があるのです。