バイク事故で睾丸は鼠径部を通り腹部へ移動
今回バイク事故に遭った男性は事故の衝撃により、右の睾丸が陰嚢から鼠径部という小さな通路を通り、腹部へと移動してしまいました。
鼠径部とは足の付根辺りの凹んだラインのことで、俗にパンティラインなどと呼ばれる位置にある長さが約4〜6cmの通路のことです。
さきほど男性の睾丸は腹部で発生し、その後陰嚢へ移動すると説明しましたが、この移動通路となるのが鼠径部です。
この通路は男性と女性の両方に存在しますが、その中に含まれる構造は男女で異なります。男性の場合は、睾丸の移動とともに鼠径部が広がり精索がここを通って繋がるようになります。一方、女性の場合は睾丸の移動はないので男性より鼠径部は細く、精管などを持たないためここを靭帯が通っています。
今回の男性は事故の衝撃でこの鼠径部を通って睾丸が腹部まで押し込まれてしまっていました。
治療にあたった医師たちはまず、男性の鼠径部にたまった血液を除去し、酸素が不足して冷えた睾丸を温めました。
その後、「睾丸固定術」と呼ばれる手術を使用して、男性の右の精巣を外科的に元の位置に戻しました。なお、この手術は早期の発育中に精巣が完全に降りてこないという、一般的な先天性の欠陥を持つ子供たちにも使用されているものです。
実は今回の事故で男性の睾丸が腹部まで移動していたことに、医師たちは最初気が付いていませんでした。
男性が搬送されてきたとき、陰嚢には大きな血腫がありました。血腫とは主に外傷によって漏れ出した血液が周囲の組織にたまったものです。
この血腫により、医師たちは男性の睾丸を適切に検査することができず、出血への処置や、骨盤の骨折の処置、彼の膀胱が無事であることを確認することに集中していたのです。
しかし、CTスキャンの結果、睾丸が腹部まで移動していたことが判明したのです。
医師たちは、睾丸脱出を見つけるのがどれほど難しいかを指摘しています。
それは、今回の男性のように外傷的な理由から、鼠径部に残る重度の怪我や溜まった血液が、陰嚢の物理的な検査を困難にするためです。
過去にはバイク事故に遭った後、患者が睾丸脱出と診断されるまでにほぼ1年を要したケースもあります。発見の遅れは生殖能力やホルモンの産生へ影響を与えることが考えられるため、迅速な診断が必要です。
なお、今回事故に遭った男性は、6カ月以内に睾丸は正常な状態に戻り、ホルモンや精液の産生などの重要な機能へのダメージの兆候はありませんでした。
バイク事故には要注意
今回の報告にあたり医師たちが過去の睾丸脱出のケースを調査したところ、睾丸脱出の約80%がバイク事故に遭った20代半ばの男性であることがわかりました。
そして、精巣が腹部まで移動するのはその中でも稀で、その確率は約6%でした。
もしかするとバイクに跨っている状態で事故に遭ってしまうと、睾丸脱出になりやすいのかもしれません。
バイクに乗る男性は、バイクに跨る前に睾丸脱出という4文字を思い出し、安全運転を心がけましょう。