「不安感受性」とは?
日々の身体活動は健康的なライフスタイルに欠かせません。
定期的な運動は体だけでなく、心の健康を改善する上でも大切です。
その一方で、個々人の「不安感受性(Anxiety Sensitivity)」が日常的な身体活動レベルとどう関係しているのかはよく分かっていませんでした。
不安感受性とは、個人が将来の脅威や不確実性に対する感覚の鋭敏さを示したものです。これは不安や心配を起こさせる状況がなくても、潜在的なリスクをどの程度感じやすいかで評価されます。
例えば、「雨の予報を聞いて傘を持って出かけたり予定を変更しようか」と考える人は不安感受性が低いといえます。しかし「雨の予報を聞いて洪水や停電などの状況を想像する」という人は不安感受性が高いと認識されます。
他にも具合が悪いとき「風邪かなと市販の薬を飲んで休む人」は不安感受性が低く、「重大な病気になったかもと考え病院で検査予約をする人」は不安感受性が高いと言えます。
これまでの研究で、不安感受性の高い人は身体活動を避ける傾向にあることが示唆されていましたが、確かな関連性は明示されていませんでした。
そこで研究チームは「不安感受性」と「身体活動レベル」にどのような関連性があるのかを調べることにしました。
不安感受性が高いほど、身体活動が落ちる
調査では、9つの主要な研究データベースから今回のテーマに関連する43の先行研究を集め、計1万303人の被験者データのメタ分析を行っています。
その結果、不安感受性の高さと身体活動レベルの間には、有意な”負の関係”があることが分かったのです。
簡単に言えば、不安感受性の高い人ほど日々の身体活動が少なく、不安感受性の低い人ほど身体活動が多くなる傾向にありました。
これは以前の研究で示唆されていた「不安感受性が高い人ほど身体活動を避ける」ことを証明する結果です。
さらにチームは、不安感受性をさまざまなタイプ別に分けて、より詳しく掘り下げてみました。
すると、個人レベル(例えば、私生活や仕事)での不安感受性が高い場合には、身体活動が有意に低下するものの、社会的状況(例えば、物価高や中東での戦争)への不安感受性が高い場合には、身体活動との有意な関連性は見られませんでした。
つまり、身体活動レベルの低下は、個々人の心配や不安に起因して生じるものと考えられます。
激しい運動ほど避けがちに
それに加えて、不安感受性と身体活動の関連性の強さは、身体活動の強度にも依存していることが判明しています。
メタ分析の結果、散歩のような強度の低い運動では、両者の相関性も小さくなっていました。
ところが、ラントレやスポーツのような強度の高い運動になると、不安感受性と身体活動の負の関係が最大化していたのです。
以上の結果を踏まえると、不安感受性の高い人は、健康メリットの大きな高強度の運動と縁遠くなることで、余計に心身の状態を悪化させるリスクが高くなると考えられます。
その一方で、過去の研究では、高強度の運動を自発的に行うことで不安レベルを低下させられる可能性があることが示されています。
運動をしないから不安感受性が高くなっているのか、不安感受性が高いから運動しなくなるのか、この点はまだ明確には言えないかもしれません。
ただ、高強度の運動ほど準備に時間がかかったり、怪我のリスクなどを考えやすくなる可能性もあるため、不安感受性の高い人は避けがちになるのかもしれません。
ボルダリングなどのスポーツや、重いウェイトトレーニングなどは、潜在的なリスクを想定しやすい人は、危なそうだからやめておこうと手が出ていないのではないでしょうか?
しかし、いずれにせよ運動が精神的な健康に良い働きをすることは数々の研究から示されています。
研究主任の一人であるクリス・デウルフ(Chris DeWolfe)氏は「日常的な身体活動レベルが低い人ほど、運動から得られる心身へのプラスの効果はより大きなものとなるでしょう」と指摘しました。
日常的に心配や不安を感じやすい人は、意識してランニングやスポーツを取り入れてみることで、心身の健康を大きく改善できるかもしれません。
チームは今後、なぜ不安感受性が高いと身体活動レベルが落ちてしまうのかという”因果関係”について明らかにしていく予定です。