笑いはストレスホルモン値を下げてくれる?
私たちがストレスを感じるとき、その原因が物理的(騒音や光害など)であれ心理的(恐怖や不安を感じる)であれ、「視床下部-下垂体-副腎系(HPA)」と呼ばれる神経内分泌系のシステムが活性化されます。
このHPAの活性化の一部として、副腎皮質から分泌されるのがストレスホルモンとして知られる「コルチゾール」です。
コルチゾールは決して悪い物質ではなく、血糖値の低い早朝に分泌して血糖値の上昇を促したり、交感神経を刺激して脳を活発にしたりと、生命の維持に欠かせない働きもします。
ですが、HPAの慢性的なコルチゾール分泌が続くと、肥満・うつ病・慢性疼痛(とうつう)などを引き起こし、心身の健康に負の影響を及ぼすことが分かっています。
一方で以前から、慢性的なコルチゾール分泌を防ぐための最も簡単で原始的な方法は「笑い」であると指摘されていました。
医学的にも「笑い」には、免疫系の活性化を促すことでコルチゾール値を低下させる働きがあることが分かっています。
また過去の研究では、笑うことで痛みへの耐性が高まったり、心血管疾患のリスクを低下することが示されてきました。
にも関わらず、笑いがコルチゾール値の低下に寄与することを証明する確かな研究結果は得られていなかったのです。
自発的な笑いでストレスレベルは下がる!
そこで研究チームは今回、「笑い」と「コルチゾール値」の関係性を調べた先行研究を集めてメタ分析を行いました。
調査では、1989年〜2021年の間に発表された8件の研究が選ばれています。
ここには平均年齢38.6歳の一般男女315人のデータが含まれ、いずれにおいても笑いの誘発前後のコルチゾール値が正確に計測されています。
また自発的な笑いを誘発する方法としては、コメディ映画やバラエティ番組の鑑賞が5件、訓練を受けた笑い療法士によるものが2件、自ら自由な方法で笑いを誘発する方法が1件でした。
実験では、被験者をランダムに2つのグループに分けて、一方は笑い刺激あり、もう一方は笑い刺激なしとしています。
そしてコルチゾール値を血液または唾液サンプルで測定し、笑いを誘発した前後の変化を調べました。
その結果、笑いを誘発したグループは、笑いなしの人たちに比べて、コルチゾール値が平均して31.9%も低下していることが判明したのです。
さらにチームは、たった一回の笑いセッション(実験により9〜60分と差がある)でも、笑いなしグループと比較して、コルチゾール値が36.7%も下がっていることを発見しました。
興味深いことに、笑いの持続時間はコルチゾール値の低下レベルに影響を与えておらず、たとえ笑った時間が短くてもコルチゾール値は有意に低下することが示されています。
以上の結果から、自発的な笑いには、ストレスレベルの低下やコルチゾール分泌の慢性化を防いで肥満・うつ病・慢性疼痛のリスクを低下させるなど、心身の全体的な健康にプラスの影響を与える可能性があると結論されました。
仕事やプライベートで疲れが続いているときは、笑える動画を見たり、友人と談笑することが最良の治療となるかもしれません。