収入が増えるほど幸せになれるのか
生きていくうえで「幸せになりたい」と思うことは至って自然なことです。
しかし現代では「何が幸せなのか」の指標が曖昧になってきています。
かつては収入が多くなればなるほど幸福度は高くなるものと考えられてきました。
たしかにお金がなければ、普通の生活を送ることもままなりません。
一方でお金が十分にあれば、自分の望むものを買うことができ、幸せを享受できると考えられます。
しかし近年の研究によると、年収が上がっても幸福度はある時点で頭打ちになってしまうという報告があります。
有名なのは、2002年にノーベル経済学賞を受賞した、米プリンストン大学のダニエル・カーネマン氏(Daniel Kahneman)らの研究でしょう。
彼らは米国の世論調査を行っているGallup社が実施する調査データを用い、年収と幸福度の関係性を調べた結果、年収が約750ドル(当時の日本円換算で約1,000万円)を超えると幸福度が頭打ちになってしまうことを報告しました。
頭打ちになってしまう理由は、年収が増えれば増えるほど、お金から得られる幸せに徐々に慣れてしまうからだと考えられています。
このような研究結果が報告されるようになったことで、「お金と幸福度」の関係性においては、お金の量よりも使い方が重要なのではないかとの考えが多く述べられるようになりました。
そこでブリティッシュ・コロンビア大学のエリザベス・ダン氏(Elizabeth Dunn)らの研究チームはお金をどのように使えば幸福度が高まるかを検討しています。
彼らはまずオンラインで募集した632名を対象に、典型的な月の収支、他者へのプレゼントにかかった金額、慈善活動への寄付額等を尋ね、お金の用途と幸福度の関係を調べました。
分析の結果、他人へのプレゼントや慈善団体に対する寄付のような利他的な支出が多い人ほど幸福度が高い傾向がありました。
しかしこれらの関係性は相関関係であって、利他的な支出を増やせば幸福度が高まるといった因果関係があるかは定かではありません。
もしかすると人生に対し満足感が高い人が積極的に利他的な支出を多くしている可能性も考えられます。
そこで研究チームはこの問題を検証する実験を実施しました。