AIが生成したアートに対する暗黙の偏見が存在する
新たに慶應義塾大学の周儀珍氏(Yizhen Zhou)らの研究チームは、AI生成のアートに対するネガティブなバイアスに関するより詳細な検討を行いました。
実験では、参加者に画像を見せ、美しさ・具体性、作品がどれだけ好きかの評価と見た画像が人間が描いたものか、AI生成されたものかを判断してもらっています。
実験者は、Vienna Art Picture System(VAPS)のデータセットから風景画20点と、Disco Diffusionにその風景画の名前と作成者の名前をプロンプトに入れ、生成された風景画20点を用いました。
また評価時には参加者の眼球運動を測定しており、注意が向いた場所や観察時間に違いがあるのかを比較しています。
実験の結果、人間が描いた風景画とAIが生成した風景がに対する主観的な評価に差はありませんでしたが、人間が描いた絵のほうが、AIが描いた絵よりも見る時間が長くなりました。
またAIと人間のどちらが描いた絵なのかの判断においては、人間が描いた絵は約68%が正確に分類できたのに対し、AIが描いた絵を正確に分類できた確率は約43%に低下しました。
つまり、私たちは人間が描いたのか、AIが生成したのかを正確に判断することはできず、具体性や美しさなどの美的観点では同等の評価を下しましたが、人間が描いた絵に対して観察時間をより長く費やしたのです。
人間が描いた絵に対して観察時間を長く費やす、また人間が描いたと判断しやすい傾向を踏まえて、研究チームは次のように述べています。
「この研究結果は、AIが生成したアートに対する暗黙の偏見が存在することを示している。現在AIは、人間が行う創造的なタスクを実行できるようになったが、芸術的創造性は以前として人間だけの特有の能力とみなされているのではないか」
なぜ私たちはこのようなバイアスを持っているのでしょうか。
個人の作品の著作権侵害、プライバシー侵害、著名人のフェイク画像や動画作成による名誉棄損、雇用の喪失、シンギュラリティなど。
AI技術の急速な発展することで、社会がその仕組みや法律整備、倫理が追い付かず、さまざまな問題が表出しやすくなっています。
おそらくAI生成アートに対する潜在的で、ネガティブなバイアスは、このような問題を見聞きすることによって形作られているのと考えられます。
しかしこの研究は、風景を描いた写真しか使用しておらず、また参加者は日本人のみでした。
それゆえ、異なる種類の写真や、大規模でさまざまな人種の参加者を対象とした研究では、また違った結果が報告されるかもしれません。
その点に関してはさらなる研究が必要だと言えるでしょう。