ADHDの方が食料採集の能力に優れていた?
チームはオンライン上で、アメリカ在住の成人457名(平均年齢45.6歳、男性232名、女性217名、その他8名)を被験者として募りました。
人種は白人からアフリカ系アメリカ人、アジア系、ラテン系と多岐にわたります。
被験者には、私たちの祖先がしていたであろう採餌行動を想定して、茂みの中からできるだけ多くのベリーを収穫するゲームに取り組んでもらいました。
ゲーム内では、道の左右に並んだ茂みの各ポイントにカーソルを合わせると収穫でき、採集を続けるごとにその茂みから得られるベリーの数は減っていきます。
被験者は同じ茂みで限界まで採集を続けることもできますし、新しいポイントに自由に移動することもできます。
新しいポイントではまた勢いよくベリーが取れ始めます。
制限時間は8分です。
これと並行して、被験者にはADHD症状をどれだけ持っているかを評価するアンケート調査に回答してもらいました。
その結果、症状に程度の差はあるものの、参加者のうちのやく半数に当たる206名が何らかのADHD症状を持つことが確認されました。
そしてチームは各被験者のADHDスコアとゲームでの収穫量や行動傾向を比較したところ、興味深い発見をしたのです。
ADHDスコアの低い被験者は、同じ茂みポイントに長く留まる傾向があり、他のポイントに移動する回数が少なくなっていました。
これに反して、ADHDスコアの高い被験者は、同じ茂みポイントに留まる時間が短く、収穫量が減ってきたと感じたらすぐに別のポイントに移動する傾向が見られたのです。
その結果、ADHDスコアの高い被験者はそうでない被験者に比べて、最終的なベリーの収穫量が多くなっていました。
これは非常に興味深い結果です。
ADHD症状を持つ人はおそらく、同じ茂みから採れるベリーの数が減ってきたことで集中力を切らし、注意散漫さから他の茂みが気になり始め、そして「思い立ったらすぐに行動する」という衝動性から採集ポイントを変えていたと考えられます。
しかしそれによって、最終的なベリーの収穫量が増えるという有益な結果につながっていたのです。
このことはADHDの特性が初期人類の狩猟採取グループにおいて生存に有利に働いた可能性を示唆しています。
研究には参加していない英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のマイケル・J・ライス(Michael J Reiss)氏は「ADHDは深刻な悪影響と関連づけて考えられるが、積極的な行動や迅速な意思決定が高く求められるようなシチュエーションでは役立つのかもしれない」と指摘しました。
ADHDの人は社会の中で、組織の規律や要望に応じて仕事をすることは苦手ですが、個人の裁量や責任で行う仕事では高いパフォーマンスを上げる場合があります。実際社会体に成功した有名人の中には、ADHDの特性に当てはまる人も多く存在すると言われます。
もしこうした行動特性が私たちの祖先において、未知なる狩猟採集ポイントの発見に繋がり、仲間の食料難を救うことにも繋がっていたとしたら、ADHDは人類の繁栄を促す大きな助けとだったのかもしれません。
学校や会社などの集団生活の中では問題児扱いされてしまうことが多いADHDですが、実際その特性にはネガティブな側面ばかりではなく、適切な状況さえ得られれば大活躍できる可能性が秘められているのです。