自虐や悪口で「寝不足の疲労感」を飛ばす?
これまでの研究は主に、自虐的ユーモアや乱暴な言葉遣いが「聞き手」に与える影響について焦点を当ててきました。
対照的に、こうした言葉の使い方が「話し手自身」とどういった関係にあるのかはあまり調査されていません。
しかし一方で、オクラホマ州立大学の心理学研究チームは、自虐的ユーモアや乱暴な言葉には話し手本人の脳を刺激し、覚醒を促す作用があることを過去の調査で知っています。
そこでチームは、ある一つの仮説を立ててみました。
「自虐的ユーモアや乱暴な言葉に自身の脳を刺激して覚醒させる作用があるなら、睡眠不足にともなう疲労感を打ち消すためにも使用されるのではないか?」
要するに、自虐的ユーモアや乱暴な言葉は一種の”カフェイン”として使用されるのかもしれないということです。
この仮説の真偽を確かめるべく、同大に在籍する309人の学部生(平均年齢20.43歳)を対象に調査を行いました。
睡眠不足であるほど自虐や悪口が増えていた!
調査ではまず、心理学的に分類されている4つのユーモアスタイルの中で、被験者の最も使用頻度の高いものはどれかをアンケート調査で評価しました。
このユーモアスタイルの分類は2003年頃に提唱されたもので、次の4つに区分されます(Journal of Research in Personality, 2003)。
・親和的ユーモア:自己や他人を傷つけず、周囲との結びつきを強めるようなユーモア。ダジャレや一発ギャク、顔芸などはこれに当てはまる。
・自己高揚的ユーモア:ストレスフルな状況を笑い飛ばし、何でもない日常の出来事に面白い点を見出すユーモア。
・攻撃的ユーモア:他人をけなしたり、からかったり、皮肉ったりすることで笑いを取るユーモア。
・自虐的ユーモア:自分の失敗談やコンプレックスを笑いにする自己卑下的なユーモア。
次に乱暴的な言葉の使用頻度の評価では、研究者のいう「カースワード(Curse word=呪い言葉)」を具体的な指標としました。
カースワードとは、英語で不快感や怒りを表現するための乱暴な言葉や社会的に使うべきでは侮辱的な表現のことで、俗にいうFワードなどが含まれます。
例えば「くたばれ!(F*ck you!)」とか「クソッタレが!(son of a bitch)」とか、テレビ放送ならピーが入るような言葉です。
被験者には20個のカースワードを提示し、それぞれの日常的な使用頻度について「全くない」から「とても頻繁」までの6段階で評価してもらいました。
そして最後に、被験者の過去4週間にわたる睡眠状態を評価して、睡眠の質や抑うつ症状、疲労感などの程度を測定しています。
これらのデータを比較分析した結果、チームの予想通り、寝不足が多くて睡眠の質が低下している人ほど、自虐的ユーモアやカースワードの使用頻度が増加するという有意な相関関係が見つかったのです。
この結果は男女の性別や性格特性といった他の変数を調整した上でも、変わらずに維持されています。
このことから、自虐的ユーモアや乱暴な言葉遣いは個々人の性格だけでなく、睡眠の質の低下にともなう慢性的な疲労感や抑うつ症状によって増加する可能性があると結論されました。
自虐やカースワードは通常の言葉遣いに比べて刺激が強いため、脳の覚醒を促して疲労感を飛ばすのに繋がると考えられます。
寝不足で疲れている人は無意識的にそれを感じていて、自虐や悪口が増えるのかもしれません。
ただ被験者の脳の状態を直接的に見たわけではないので、自虐や悪口にどれだけ脳を覚醒させるの作用があるのかは不明です。
研究主任のシェリア・ケニソン(Shelia Kennison)氏は今回の結果を受けてこう述べました。
「カースワードの使用は通常、本人が自分の意思で選ぶことであり、その人自身の気質や性格に原因があると考えられてきました。
つまり『カースワードをよく使う人は良い人ではない』というように。
しかし私たちの研究によると、乱暴な言葉遣いの背景には睡眠不足などの健康状態が原因として関係しているかもしれないのです」
もし周囲で寝不足の友達に対して「急に自虐や悪態が増えたな」と感じたら、それは周りを攻撃する目的ではなく脳を覚醒させるために言っているだけの可能性があります。
そんなときは、「いいから寝ろ」と言ってあげましょう。