聴覚の一部に障害をもつイギリス人ジャーナリスト、チャーリー・スウィンバーンさんは、耳が聞こえない人の「くしゃみ」がいつも “achoo!(アチュー!)”と言わずに静かに行なわれることに疑問をもっていました。
“achoo!(アチュー!)”とは、英語圏でのくしゃみの「かけ声」のようなものです。ちなみにフランスでは “atchoum!”、フィリピンでは “ha-ching”、日本語ではご存じの通り「はっくしょん」。江戸っ子はその後に「バカヤロー」が付いたり付かなかったりするのは余談ですが、とにかく場所が変わればくしゃみも変わるわけです。
このことから、くしゃみの際に出る声が100%自然なものではなく、言語や文化に依存している部分があることが分かります。そして、耳が聞こえない人にとっての言語は「手話」になりますが、当然ながらくしゃみの「かけ声」を手話で表現する必要はなく、彼らがくしゃみの際に何も特別な言葉を発しないこともうなずけます。
その「くしゃみ」を言葉で表現するのは困難ですが、あえて文章にすると、「深く重い空気を吸い込み、鋭く発射された空気の音」のようであるとスウィンバーンさんは言います。
耳が聞こえない人の「くしゃみ」に関する研究はほとんどありませんが、聴覚障害を持つ人の「笑い声」については、メリーランド大学の研究者らによる “Laughter Among Deaf Signers” といった研究があります。そこでは、聴覚障害者の笑い声には健常者とは異なる「特徴」と「多様性」があることが明らかにされています。
つまり、健常者が “ha ha” と笑うとき、自然に出た音が “ha ha” なのではなく、「“ha ha” と言おう」と自分の中で無意識的に判断した後に、言葉に出して「言って」いるのです。よって、くしゃみについても同じことがいえるでしょう。私たちは「はっくしょん!と言おう」と思って「はっくしょん!」と言っているのです。
これは、言語を始めとした「文化」が自分の中に「無意識的に」根づいていることがわかる興味深い例です。次に鼻がムズムズしたときは、試しに「サイレント」でくしゃみをしてみてください。いかに無意識に根付いた習慣を変えることが難しいかが分かることでしょう。
via: bbc / translated & text by なかしー
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