土星の環がなくなる?
土星のシンボルともいえる環ですが、周期的に見えなくなるという現象があります。
土星は約30年周期で太陽の周りを公転しています。土星の公転軌道面に対して環が少し傾いているため、地球と土星の位置関係によって環の見え方が変化します。
その結果、おおよそ15年周期で環を真横から見る時期が訪れ、環がほとんど見えなくなります。これは「環の消失現象」と呼ばれています。環が実際に消えるのではなく、位置関係によって見えなくなるのです。
ちなみに次に環の消失現象が起きるのは2025年です。
土星の環が見えなくなるのは残念ですが、このことから土星の環の秘密がうかがえます。真横からだと見えないということは、その幅に比べて厚みが非常に薄いということです。
土星の環の幅は、望遠鏡ではっきりと見えるA環だけで15万kmぐらいあり、かすかなものを含めると40万kmを超えます。それに対して、厚さはたった数百mしかありません。
土星本体を直径20cmのバレーボールに見立てると、環の幅は60cmを超えます。それに対して、厚さは5000分の1mmしかないことになります。このように超極薄なので、真横から見た時に環が見えなくなるのです。
では土星の環はなぜそんなに薄いのでしょうか? その理由は次のように説明できます。
下の図は土星の環に垂直な方向から見た環のモデルです。土星に近い場所に粒子aがあり、遠い場所に粒子bがありいずれも土星の周りをまわっています。
粒子aは土星に近いためより強い重力が働きますが、土星の周りを速いスピードで回転しているため、回転による遠心力と重力が釣り合っています。粒子bに働く重力は弱いため、aよりも遅い回転速度の場合に遠心力と重力が釣り合います。
粒子aの場合も粒子bの場合も軌道は安定しています。このように粒子の運動エネルギーに応じて安定な軌道が存在するため、土星からの距離のバラツキが大きくなります。これが土星の環の幅が広い理由です。
さて、もし土星の環にもっと厚みがあったとしたらどうなるでしょうか。次の図はその場合の土星の環を横から見たものです。
北側に環A、赤道付近に環B、南側に環Cがそれぞれあったとします。
AはBとCの重力によって赤道側に引き寄せられます。Cも同様にAとBの重力によって赤道側に引き寄せられます。一方、Bに対してAから働く重力とCから働く重力は釣り合っているのでBは動きません。結果としてA~Cの幅が極限まで小さくなります。
ところで見かけ上の問題とは別に、あと1億年ぐらいで土星の環が本当に消えてしまうという説があります。
なぜ、土星の環が消えていくのでしょうか?
それは土星の重力が原因です。環を構成する氷の粒子が、土星の重力によって徐々に土星本体に落下しているからです。
土星の環は氷の粒からできていますが、その氷の粒が環に留まっていられるのは、土星本体からの重力と環の回転による遠心力とが釣り合っているからです。しかし、太陽の紫外線などで氷の粒が帯電すると、力のつり合いが崩れて、氷は土星の磁力線に沿って南北の中緯度地域に落下していきます。
2011年にハワイのケック望遠鏡が行った観測により、土星の環を構成する粒子が土星に降り注ぐペースが明らかになりました。
その研究によると、土星の環は1億年以内に消滅すると予測されています。土星の環の形成自体が数億年前という説と合わせて考えると、土星のような見事な環の寿命は、そもそもそれほど長くないのかもしれません。
このため将来的には土星の環も天王星や海王星のように暗く希薄な環になり、地球から見えなくなるかもしれません。
土星のシンボルでもある環は、遠い未来まで変わらず存在しているように思えますが、意外と近い将来消えてしまう運命にあるようです。