なぜISS内で細菌が繁殖するのか?
国際宇宙ステーション(ISS)は、地上から約400キロ上空に建設されている有人の実験施設です。
ISSでは宇宙に特有の環境を利用した科学実験をしたり、クルーによる船外での写真撮影やサンプル採集、ISSの修理・組み立てなどの活動が行われています。
過去20年の間に300人近い宇宙飛行士がISSを訪れてきましたが、その中で彼らが意図せずしてISSに持ち込んでしまうものがあります。
それが細菌(バクテリア)です。
宇宙飛行士の体外や体内には無数の細菌が常在しており、それらが設備との接触を介して、ISS内に置き土産として残されていきます。
ISSに取り置かれた細菌たちはその場で繁殖し、独自のコロニーを形成すると考えられています。
実際に2019年には、滞在中のクルーによる大規模なISS内の細菌調査が初めて実施され、多くの細菌コロニーが繁殖していることが確認されたのです(Microbiome, 2019)。
これはISSに滞在するクルーにとって懸念すべき事実でした。
というのも宇宙空間のような微小重力下では、人体の免疫システムが低下し、病原菌に対する脆弱性が高まる可能性があるからです。
加えて、ISSのような宇宙環境は地球上とはまったく異なる環境にあります。
温度や湿度、気圧が常に人為的に制御されているだけでなく、微小重力や放射線、高濃度の二酸化炭素にさらされています。
そうした環境下で生き延びるために、細菌は宇宙環境に適応したニュータイプの姿に変貌するかもしれないのです。
これらを踏まえて、宇宙環境における細菌のコロニー形成や機能的な変化を理解することは、クルーの健康を確保し、ISS内の安全を図る上でも極めて重要な課題となります。
そこでNASAのジェット推進研究所のチームは、クルーの協力を得て、ISS内に生息する細菌株を詳しく調べてみました。