飛行距離は最大で250キロ増!渡りにかかる負担が増えている
ウクライナ紛争の影響を受けていたのは、タカ科の猛禽類である「カラフトワシ(学名:Clanga clanga)」です。
カラフトワシはアフリカ大陸の北部や東南アジアで冬を過ごした後、毎年春になると、ヨーロッパ東部やロシア南東部に渡って繁殖します。
研究チームは以前から本種を調査しており、GPSを取り付けて渡りの飛行経路のデータ収集を続けていました。
そのため、2022年に勃発したウクライナ紛争後の飛行経路の変化を調べることができたのです。
チームは今回、ウクライナ紛争が始まった数週間後の時期に、19羽のカラフトワシにGPSを装着して飛行経路を追跡しました。
カラフトワシはオスとメスで越冬地が違っており、特に今回の調査対象とした個体群ではオスが東アフリカで、メスがギリシャで越冬しており、春になるとウクライナを通過してベラルーシ南部に渡ります。
これを踏まえてウクライナ紛争後の渡りの変化を調べた結果、カラフトワシたちは飛行経路を大幅に変更していることが判明しました。
その飛行距離は例年に比べて平均85キロも増えており、そのうちの1羽はなんと約250キロも余分に移動していたのです。
それに伴って飛行時間も増加しており、オスは約125時間から約181時間に、メスは約193時間から約246時間にまで増えていました。
さらにカラフトワシの約90%は例年ですと、羽休めのために渡りの途中でウクライナに立ち寄っていました。
それが紛争後にウクライナに立ち寄ったワシは32%と大幅に激減していたのです。
特に軍事活動が多い地点で立ち寄りの回避がよく起こっていました。
以上の結果は、カラフトワシの渡りが以前に増してエネルギーを過剰に要求されるようになっただけでなく、途中の休憩や燃料補給が困難になっていることを示すものです。
研究主任のチャーリー・ラッセル(Charlie Russell)氏はその状況について「マラソンの走行距離が伸びたにもかかわらず、水休憩の地点がなくなったようなものです」と指摘しました。
こうした渡りの変化はカラフトワシの体力回復に時間がかかるせいで繁殖を妨害する可能性があります。
カラフトワシはすでに絶滅が危惧されている種であるため、自然な繁殖活動が阻害されることは種の存続にとっても一大事です。
ラッセル氏は「ウクライナ紛争は人々と環境に壊滅的な被害を与えていますが、今回の新たな発見は戦火の影響が野生動物にも及んでいることを改めて理解する貴重な機会を提供しました」と話しています。
また「今のところ、私たちにできることはあまりありませんが、カラフトワシにかかる負担やストレスをより詳しく理解することで、何らかの支援や繁殖を手助けする方法が見つかるかもしれません」と述べました。