味覚地図は現代科学では否定されている
舌の先が「甘味」を感じ、舌の奥のほうでは「苦味」、両側には「塩味」と「酸味」を感じ、中央付近には「うま味」領域が広がっている…
私たちの多くは子供の頃から、舌の上に描かれた味覚の地図を信じていました。
この味覚地図は1901年にドイツ人科学者、デイヴィッド・ヘーニッヒが行った研究をもとにしています。
研究においてヘーニッヒは舌の機能を調査するため、各種の味覚をさまざまな濃度に薄めて舌の上に乗せ、反応を調べました。
そして特定の場所、例えば舌の先端の部分(甘味領域)では、他の領域よりも低濃度であっても甘味を感じられると結論しました。
味蕾というセンサーの存在が明らかになって以降は、この理屈について、舌にある各味に対応したセンサー(味蕾)の密度が場所によって異なるため、舌の領域によって感じやすい味、鈍感な味があると理解されていました。
しかし、かなり以前(数十年以上前)から、この舌の領域によって味蕾の密度が異なるという考えは間違いであることが証明されています。
現在では「舌全体が全ての味を感じられる」ことが証明されています。
舌には「味蕾」と呼ばれる味を感じる部分がありますが、味蕾の構造を調べると、さまざまな味覚センサーを持つ細胞が50~150個ほど集まっている様子をみることができます。
そして、味蕾内部の細胞集団の中には甘味・塩味・酸味・苦味・うま味を検知する細胞が混在しており、1つの味蕾でも、基本的に全ての味に対応していることが判っています。
(※近年では、新型コロナウイルスのパンデミックにより、舌の味を感じる「味蕾」に感染が起こることで、味覚の消失が起こることも判明しました。)
ただいくつかの研究では舌先のほうが甘味を感じやすく、舌の根元では苦味を感じやすいと報告されているのは確かです。もちろんこれは現在の「味覚センサーが舌全体に均等に分布している」ことを否定する内容ではありませんが、私たち自身も、なんとなく苦みは舌の奥で感じているような感覚があるのは確かです。
そのため味覚というものは、私たちが考えているほど単純な感覚ではない可能性が高いのです。
さらに近年では、味覚が口の中に限定されるという考えそのものが、古いことが示されてきました。