アルツハイマー病患者では脳のガンマ波が減衰する
アルツハイマー病では、記憶力や認知能力が低下し、最終的には日常の簡単な作業を行う能力も低下します。
この疾患は、脳内にアミロイドプラークとタウタンパク質が異常に蓄積することで、ニューロン間のコミュニケーションを阻害し、最終的には細胞死につながります。
ニューロンは、コミュニケーションを維持することで生存が促進されるため、このコミュニケーションが失われるとニューロンの機能が低下し、死に至るのです。
近年、アミロイドβの蓄積を抑制する薬としてアデュカヌマブ(Aduhelm®)とレカネマブ(Leqembi®)が開発されました。
しかし、これらの薬の認知障害を回復させる効果は限定的であり、アミロイドβをターゲットとした治療の効果には限界があります。
一方、最近の脳波研究により、パルブアルブミン陽性介在ニューロン(PVニューロン)によって生成されるガンマ波が、認知機能や短期記憶に重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。
ガンマ波は異なる脳領域間の情報統合に関与しており、特に認知機能や記憶に関連するテスト中に活動が増加することが知られています。
特に40Hzのガンマ波に焦点を当てた研究が進んでおり、この周波数の光または音の刺激が認知機能を改善する可能性が動物モデルで示されています。
また、アルツハイマー病患者ではアミロイドβの毒性が顕在化する前から、ガンマ波が減少していることが示唆されています。
同様のガンマ波の減少は、パーキンソン病、外傷性脳損傷、自閉症スペクトラム障害、うつ病、統合失調症などでも確認されています。
この結果から、脳外からのガンマ波の供給が、脳内でガンマ波を誘発し、それが認知機能や記憶に影響を与える可能性が示唆されています。
海外から石油を輸入して火力発電所を動かすように、不足しているガンマ波を外部から取り入れて認知機能や記憶能力を活性化させるわけです。
しかし光や音を使ってガンマ波を延々と取り込み続けるのは、目や耳にとって負担になります。
なにより直接的な刺激と異なり、途中に感覚器官を挟む方法は、効率的とは言えません。
そこで今回カリフォルニア大学の研究者たちは、ガンマ波を外部からの供給に頼る代わりに、脳内で直接発生させ、ガンマ波を自給自足させる薬「DDL‐920」を開発しました。