巣にかかったオス蛍が「メスの光信号」を放っていた?
研究主任のフー・シンファ(Fu Xinhua)氏は、蛍の生物発光による求愛シグナルを調査している昆虫学者です。
同氏はある日の野外調査中、オニグモの巣に引っかかっている蛍の奇妙なパターンに気づきました。
オニグモ(学名:Araneus ventricosus)はコガネグモ科の一種で、日本国内の北海道〜琉球列島まで、国外では中国・台湾・韓国の東アジア圏に分布しています。
体長は2〜3センチ程度で、円形の巣を張って獲物を待ち伏せするのが特徴です。
シンファ氏はオニグモの巣に蛍の一種(学名:Abscondita terminalis)がかかっているのを度々確認しましたが、不思議なことに、そのほとんどすべてがオス蛍だったのです。
同氏はその後も何度か野外調査を重ねたものの、オニグモの巣にメス蛍が引っかかっている例はめったにありませんでした。
「これは何かある… 」と直感したシンファ氏はオニグモの巣を詳しく観察することにします。
するとさらに奇妙な現象が発見されました。
オニグモの巣に引っかかったオス蛍がなぜかメス蛍に特有の光信号を発していたのです。
蛍のオスとメスは一般に、繁殖パートナーを探す上で互いに光信号で合図を送り合うのですが、このとき、光信号は性別に固有のパターンで発光します。
例えば、今回の蛍(学名:Abscondita terminalis)の場合ですと、オスは腹部にある2つの発光器官を使って、複数の光パルスを連鎖させます。
他方でメスは1つの発光器官を使って単発の光パルスを発することが知られています。
そして蛍の繁殖行動は、オスの方が空中を飛び回って、草むらや葉っぱの上でジッとしているメスの光信号を探す形が基本的です。
これを踏まえると、巣にかかったオス蛍がメスの光信号を放っていたのは明らかに奇妙なことでした。
シンファ氏は「これはオニグモの採餌戦略かもしれない」と考えて、本格的な調査を行いました。