経験がある事柄の判断の追加情報は判断を鈍らせる
研究チームは経験の有無をより明確にするために追加の実験を行っています。
彼らはオンラインで募集した参加者590名に対し、以下のような「2型糖尿病」に関する問題を出しました。
「ボブは最近2型糖尿病と診断されました。彼の体は十分なインスリンを生成できないため、食事後に血糖値が危険なほど高くなる可能性があります。ボブはインスリンを注射したくないと思っており、医師が『食事と運動、そして健康的な体重を維持することで糖尿病をコントロールできる』と言ったときは安心しました。
ボブは仕事でストレスの多い1週間を過ごしており、金曜日の夜に友人に会うのを楽しみにしています。彼らはいつもボブのお気に入りのファストフード店でハンバーガーを食べますが、今ではそれが大丈夫かどうか気になっています。ボブが糖尿病をコントロールし、インスリン注射を避けるためにできる最善のアドバイスは何ですか?
A. 外食する
B. ハンバーガーの代わりにグリルチキンサンドイッチを注文する
C. グリルチキンサラダを注文して、友達と一緒にサイクリングに行くよう提案する
D. いつも通りにする」
研究チームは、彼らを問題以外の情報を与えないグループと、炭水化物の摂取制限や運動が2型糖尿病に与える影響の図解を見るグループに分けています。
結果、過去に糖尿病になったことがある人は追加の情報がない場合に、問題の正答率が高くなりました。
一方で糖尿病患者を世話した経験がある人と、糖尿病に罹患したことがない人は、追加情報があったときのほうが正答率が高くなったのです。
この結果は、もともと自分で色々糖尿病について調べていて詳しく知っていた人(過去に罹患経験のある人)は、追加情報を与えられると回答の精度が下がる可能性を示しています。
参考にする情報が増えた方が、考慮できる判断材料が多いはずなのに、なぜこのような現象が起きるのでしょうか。
この研究では、特に正答率を下げる原因となったものが「因果情報」だったと報告しています。
「因果情報」とは、ある結果がどのような要因から生じるのかについての情報です。たとえば「運動不足が体重増加につながる」といった情報がこれに該当します。
これは一見、判断材料として精度を上げるために役立つ情報に思えます。
しかし、もともと知識を持っている場合、この因果情報に、過去の自分の知識との矛盾する部分や異なる情報があると、自己の知識への確信が低下してしまうのです。
私たちには自分が過去に学んだ知識や経験を基にした判断のための認知モデル(メンタルモデル)というものがあります。
そこに追加の情報を得た場合、私たちはこのメンタルモデルに沿うよう、情報の更新を行います。
しかし、ここで自分のメンタルモデルと新しい情報に食い違いが生じてくると、自身の判断が正しいのかどうか疑心暗鬼になってしまうのです。
本来であれば、経験したことがある事柄は考える時間を要せず即時に判断ができます。
しかしそこに追加の情報が与えられることで、正しいにも関わらず、考えすぎで間違った別の選択肢を選ぶように、判断を誤る可能性が高くなるのです。
知識はどんどん拡張させ、更新していくことは正しい判断の精度を上げるために大切だと考える人は多いでしょう。
しかし、追加情報は諸刃の剣になってしまう場合があるようです。
読者の中にも、似たような商品が並ぶ通販サイトでどの商品を選ぶのが最適かネットで調べまくったことがある人は多いでしょう。
そのとき、これにしようと思った商品に否定的なレビューが出てきたりすると、じゃあやっぱり違うのにしよう、などとだんだん自分の判断への確信が低下してしまいがちです。
そして、悩んだ挙げ句、最終的に買った商品はあまり品質の良いものではなかったなんて経験があるのではないでしょうか?
情報の過多は逆に判断を誤らせる原因になるようです。
情報はほどほどに抑えて判断した方が、良い結果に結びつくのかもしれません。