鏡の中の自分を基準に「喧嘩を売る相手」を選んでいた!
ホンソメワケベラには、環境下で見知らぬ同種個体が近づいてくると、自分の縄張りを守るために攻撃をして追い払う習性があります。
ただ無闇に喧嘩をふっかけているとケガをするリスクもあるので、明らかに自分より大きな相手との喧嘩は避けることが知られ知恵ます。
そこでチームはこの習性をヒントに、「ホンソメワケベラが自分の鏡像を情報源として利用し、攻撃する相手を選別できるかどうか」を検証してみました。
実験ではまず、本物のホンソメワケベラ1匹を水槽の中に入れます。
水槽の一方の壁には「鏡」が設置してあり、自分の姿を確認できるようにしました。
反対側の壁には、水槽に入れたホンソメワケベラより「体長が10%大きい個体」「体長がまったく同じ個体」「体長が10%小さい個体」の3種類の写真を実験ごとに貼り替えます。
また水槽の中央には不透明な仕切りを立てて、ホンソメワケベラが鏡と写真を同時に見れないようにしました。
そしてホンソメワケベラが鏡を見る前と後で、写真の個体に対する反応がどう変化するかを観察。
その結果、鏡を見ていない状態のホンソメワケベラは3種類のどの写真に対しても、同じ時間と頻度で攻撃をすることがわかりました。
これは鏡で自分の大きさをチェックしていないので、相手との大きさ比較ができなかったからでしょう。
ところが驚くことに、鏡を見た後のホンソメワケベラは、自分より小さな個体の写真には長く攻撃したのに対し、自分より大きな個体の写真には攻撃をしかけなくなったのです。
これは鏡で自分の大きさをチェックできたことで、「喧嘩を売っても勝てそうな相手」と「喧嘩をしかけたら負けそうな相手」とを選別できたからだと考えられます。
以上の結果から、
・ホンソメワケベラは鏡を見て自分の体格を正確に把握できること
・自分の鏡像を基準に相手との体格差を認識して、攻撃をしかける相手を選別できること
が明らかになりました。
これはホンソメワケベラが鏡で自分の姿を確認するだけでなく、鏡像を意図した目的に利用できる高レベルの認知能力を持っていることを示すものです。
従来、ホンソメワケベラを含む魚類の行動の多くは一般的に「本能」によるものとして説明されてきました。
しかし今回の知見から、彼らの自己意識は非常に柔軟であり、これまで考えられてきたよりは私たちヒトにずっと近いレベルにあると考えられます。