背中にコブ⁈ 新しい体のメカニズムを発見
ミイラの調査により最初に明らかになったのは、ケブカサイの毛皮が成長につれてどのように変化するかでした。
ケブカサイは寒冷な環境に住んでいたので、基本的に皮膚は分厚く、体毛の密度も濃かったことが知られています。
しかし研究チームは今回、アビイスキーサイと過去に見つかっているミイラを合わせて、ケブカサイの毛皮が成長につれて硬く、分厚くなっていく証拠を見つけたのです。
これまでの調査では、2015年に生後12〜18カ月ほどのケブカサイのミイラが、2007年には20歳ほどで死んだケブカサイの成体のミイラが見つかっています。
新たに見つかったアビイスキー・サイを含めて年齢順に並べてみると、ケブカサイの毛皮は幼い頃は薄くて柔らかく、大人になるにつれて濃くて硬くなっていることがわかったのです。
これは以前から予想できたことではありますが、実際に物的証拠として確認できたのは初となります。
しかし最も重大な発見は「背中にコブがあること」でした。
アビイスキーサイのミイラを調べてみると、背中に高さ13センチほどのコブがあり、中に脂肪が詰まっていたのです。
この点に関しては過去の研究でも知られていないケブカサイの解剖学的な特徴でした。
その正確な機能は断定されていませんが、研究者らは「栄養の貯蔵庫として使われた可能性が高い」と指摘します。
実際に同じ機能は現生の動物にも見られ、ジャコウウシの首と背中に沿って脂肪が集まっており、食物が不足したときにエネルギー供給に使われているのです。
また一般にもよく知られているように、砂漠に住むラクダにも同様の機能を持ったコブがあります。
その一方で研究者らは、コブがオスのディスプレイとして機能した説も唱えており、ライバルへの威嚇やメスへのアピールに役立った可能性もあると話しています。
ケブカサイ最大の謎「なぜ北アメリカにいないのか?」
アビイスキーサイのおかげで、ケブカサイの新たな一面が明らかになりました。
ただケブカサイについては謎めいた部分がまだまだ残されています。
中でも研究者たちが疑問に思っているのは「ケブカサイが北アメリカ大陸にいなかったこと」です。
今日、シベリアと北アメリカ大陸を分断する「ベーリング海峡」は最終氷期の間、海面が下がっていたことで地表が露出し、歩いて渡ることができました。
その証拠にケブカサイと同時代に生きていたマンモスはシベリアから北アメリカ大陸に渡り、豊富な化石が見つかっています。
ところがなぜかケブカサイの化石は北アメリカで見つかった例がないのです。
どうしてケブカサイは北アメリカに行こうとしなかったのか、体のつくりや体質的に何か行けない理由でもあったのか?
その謎はケブカサイのミイラを調べることで解き明かすことができるかもしれません。