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無機起源説によれば、石油は現在も地球内部から供給され続けています。/ Credit : Canva
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石油はなぜ枯渇しないのか? 石油無機起源説の検証 (2/3)

2024.11.09 Saturday

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無機起源説の根拠

実験室で石油の合成が再現できた!

無機起源説を支持する大きな理由の一つは、実験的な裏付けです。

最近まで、石油の無機起源説を受け入れる上での障害は、地球の上部マントルの条件下で複雑な炭化水素系を合成できる可能性を裏付ける、信頼性が高く再現可能な実験結果が得られていなかったことでした。

この説では、炭化水素の合成には、「十分な高温・高圧」、「炭素と水素の供給源」、「熱力学的に好ましい反応環境」の各条件を必要としています。

炭化水素は、地球のマントル内で高温・高圧の状態下で自然に作られることが確認されています。

具体的には、600℃から1500℃の温度と、20〜70気圧という圧力の環境で、炭化水素の分子が結びついて石油の主要な成分が生成されます。

石油成分となる炭化水素を作るためには、起源物質であるメタン、炭素および水素が必要ですが、これらの物質は地球のマントルに豊富に存在しています。

炭素は二酸化炭素や黒鉛マグネサイトカルサイトなどから供給され、水素は水や鉱物中の水酸基から得られます。

また、この反応を進めるために必要な還元作用(触媒)は、マントルに含まれる酸化鉄(FeO)が担っています。

実際の実験では、下図に示す大型の高圧装置を使い、メタン(または炭素と水素)を起源物質として50気圧と1200℃の条件下で重合させて、複雑な炭化水素の化合物が生成されることを確認します。

この重合とは、小さな分子が化学反応によって繰り返し結合し、高分子と呼ばれる大きな分子を形成する反応を指します。

その結果、アルカンアルケン芳香族炭化水素など、自然の石油に含まれる成分が生成されました

これにより、石油が無機的に作られるという仮説が検証されています。

また、冷却速度を変えた実験では、速度が遅いほど重い炭化水素が多く生成されることが確認されました。

これは、冷却速度が遅いと、分子がゆっくりと再配置される時間が増えるため、単純な炭化水素が結合して複雑で重い液体状の炭化水素(石油に含まれる成分)が生成されると考えられています。

これらの結果から、上部マントルの環境下では複雑な炭化水素が同時に作られる可能性が示されています。

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石油生成の再現実験(59気圧、1200℃)で用いられた高圧装置 / Credit : Vladimir G. Kutcherov et al., Reviews of Geophysics(2010)

無生物の地層(非堆積岩)で存在する石油?

無機起源説では、石油やガスの水平移動を否定しています。

通常、油田やガス田は地下の多孔質の岩石中に蓄積されますが、無機起源説では、これらの炭化水素はマントルから直接供給されると考えられています。

地殻に深い断層や割れ目が存在する場合、マントル内にある高圧の炭化水素を含む流体がその割れ目を通じて上昇し、地表に近い場所で蓄積されるとされています。

この理論を支持する証拠の一つが、カナダのアルバータ州やアメリカのコロラド州にある巨大なガス田です。

これらのガス田は、地質学的に生物起源のガス田とは異なり、深部から直接供給されたガスが蓄積していると考えられています。

さらに、石油や天然ガスが生物起源説であるという常識を覆す新たな証拠が、地球最古の地層から次々と発見されています。

それは「先カンブリア時代楯状地(たてじょうち)」です。

この楯状地の地層は、先カンブリア時代の結晶片岩片麻岩花崗岩等から構成されています。

この古代の岩盤から発見される豊富な石油と天然ガスは、一体どこから来たのでしょうか。

先カンブリア時代とは、およそ5億4100万年以上前の時代で、生物の化石がほとんど残っていない時代です。

生物起源説では、石油のほとんどがジュラ紀から白亜紀(約2億年前~6千万年前)に生成されたとしています。

つまり、先カンブリア時代に石油や天然ガスが存在するのは、従来の「生物起源説」では説明がつかない現象なのです。

では、実際にどのような場所で発見されているのでしょうか。

さっそく、世界各地の「先カンブリア時代の楯状地」で見つかった石油と天然ガスの存在状況を確認していきましょう。

 まずは、南アフリカのカープバル・クレートンにある古代の火成岩と変成岩には、驚くほど豊富な天然ガスが存在しています。

なんと1958年までに、鉱山の中で190回以上もの炭化水素ガスの爆発が記録されていたのです。

さらに、ウガンダのアルバート湖周辺では、巨大な油田が発見されており、その石油資源は210万トンにも上ります。

周辺には「石油のもと」となる堆積岩は見つかっておらず、この石油の起源は謎のままです。

 次にバルト海では、深さ6800メートルもの先カンブリア時代の花崗岩層から石油が発見されました。

この地域では、アルカンなどの炭化水素が豊富に含まれているビチューメン(天然の石油物質)が採掘されており、さらに深度8000メートルでも油浸火成岩(マントルから流れ出た石油や天然ガスの浸透を受けた火成岩)が見つかっています。

この現象は、火成岩の隙間や割れ目に石油が浸透し、そこに蓄積されることによって起こります。

生物起源説では、この石油がどこから来たのかは依然として謎です。

ウクライナでも、先カンブリア時代の地層から液体の原油が見つかっています。

この地域では、結晶質岩盤に石油が含まれており、深さ380メートルから900メートルにかけて採取された岩石にはメタンも豊富に含まれていることが確認されています。

これらの先カンブリア時代の地層からの発見は、石油が必ずしも生物由来でない可能性を示唆しています。

堆積岩が存在しないにも関わらず、豊富な石油と天然ガスが発見されるという現象は、従来の生物起源説では説明できません。

このことは、石油が地球の深部、マントルから生まれた無機的な産物である可能性を強く示しています。

もしこの仮説が正しければ、地球にはまだまだ私たちが知らない石油が無尽蔵に眠っているかもしれません。

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