その1:恐怖体験で「メンタルが安定」する!
多くの人々が日常的に求める恐怖体験をコラット氏は「コントロールされた恐怖体験(Controlled fear experiences )」と表現します。
これは適度な恐怖感情を味わう上でとても重要です。
例えば、急に殺人犯に襲われたり、幽霊を見てしまったりといった出来事は、自分ではコントロールできない恐怖体験であり、本当に命を失ったり、精神が不安定になるリスクがあります。
一方、ホラーゲームをしたり、怪談ユーチューブを聴く行為では、実際に殺人鬼に襲われたり、幽霊に遭遇することはありません。
つまり安全圏にいながら味わえる恐怖体験であり、自分に合った適度な怖さを選べたり、あまりに怖くなったらいつでも辞めることができます。
これが「コントロールされた恐怖体験」の意味であり、ケガや命を失うリスクをなくしながら、プラスの健康作用が得られる行動となるのです。
では、恐怖体験で得られるプラスの作用とは何でしょうか?
具体的には、コントロールされた恐怖体験をすると生理的な高揚感が生じます。
コラット氏によると、私たちの脳は「脅威にさらされている」と感じるとアドレナリンが急増して、進化的に重要な役割を持つ「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」が引き起こされるのです。
闘争・逃走反応は、危機的状況に陥ったときに戦うか逃げるかを選択する反応であり、恐怖体験を生き延びる上でヒトを含む多くの動物に備わったと考えられています。
まず恐怖に直面することで心拍数や呼吸が速まり、脳内でアドレナリンが放出されて、瞬時に集中力が高まります。
そして状況に応じて、例えば、襲ってきた暴漢の体格を見て、「この相手なら戦って制圧できるな」とか「これは逃げた方が身のためだな」といった適切な判断を下します。
こうして危機を乗り越えた後には脳内で神経伝達物質のドーパミンが放出され、精神的な「安堵感」や「達成感」が生じ、自己肯定感の向上や自己の成長につながったり、心理的なレジリエンス(回復力)が高まるのです。
コントロールされた恐怖体験は、こうした一連のポジティブな反応をケガや命を失うリスクなしに得られるのです。
米ピッツバーグ大学の先行研究では、コントロールされた恐怖体験として、お化け屋敷を体験した被験者は、実験前に比べてストレス刺激に対する神経反応が低下しており、心理的により安定して、不安を抱きにくくなっていることが判明しました(NIH, 2018)。
これはホラー映画を観たり、怪談を聴くことが、自己肯定感の向上やメンタルヘルスの改善につながることを意味しています。
確かにホラーゲームをクリアした後は「よし、俺は恐怖に打ち勝ったぞ!」と何か自分が少し強くなったように感じますよね。
さらにコントロールされた恐怖体験には個人的なメリットだけでなく、集団的・社会的なメリットもあります。