その3:実際の恐怖体験への「耐性」が強まる!
コントロールされた恐怖体験の積み重ねは最悪の事態に対処する訓練にもなる、とコラット氏は話します。
同氏いわく、娯楽を通じて繰り返された恐怖体験は、実際の事故や災害、パンデミックなどに冷静に対処するメンタルを養うことにつながるのです。
それは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が特に猛威を奮っていた2020年のとある研究で証明されました。
デンマーク・オーフス大学の研究チームは、コロナパンデミック中に310名の被験者を対象とした心理調査を行っています。
ここでは被験者が日常的にホラー映画やパンデミック映画をどれだけ観ているかを調べ、そうした習慣が実際のパンデミックに対する心構えやレジリエンス(心理的な回復力)とどう関係しているかを検証しました(Personality and Individual Differences, 2020)。
その結果、興味深いことに、ホラー映画やパンデミック映画を以前からよく観ていた被験者ほど、コロナパンデミックによって受けた精神的苦痛が少なく、ホラー映画をまったく観ない人たちに比べて、心理的な回復力も高いことが判明したのです。
これについて研究者らは、コントロールされた恐怖体験をすることが、実際に恐怖体験が起きたときのシミュレーションとして機能し、それに対して心の準備ができるようになるからであると指摘します。
例えば、『アウトブレイク』や『コンテイジョン』といったパンデミック映画を観ておくことで、感染症はどのように広まるのか、どんな準備や行動を取った人が生き残るのか、どういった行動が感染リスクを高める悪手となるのか、感染はどのように収束するのかを脳内でシミュレーションしておくことができるのです。
こうした日頃の心理的な訓練こそ、ホラー映画ファンがコロナパンデミック中でも安定したメンタルを保ちやすかった理由と考えられています。
以上のように、コントロールされた恐怖体験は、個人のメンタルを安定させたり、仲間の社会的つながりを強化したり、実際の恐怖体験への耐性を強めるなど、さまざまなメリットがあるのです。
ちょっとしたことでは動じないメンタルを養うためにも、日頃から恐怖を味わっておくことが大切かもしれません。