数時間で1000万匹が食べられていた!
研究チームは今回、2014年2月にノルウェー沖のバレンツ海で収集した音響データを再分析しました。
この音響技術は「海洋音響導波路リモートセンシング(OAWRS:Ocean Acoustic Waveguide Remote Sensing)」と呼ばれるものです。
これは調査船の底部に設置された音響アレイを使って、海中のあらゆる方向に音波を送信し、魚の浮き袋に反響させます。
浮き袋は空気の詰まった袋状の器官であり、魚はこれを使って海中での浮力を自在に調節しています。
実はこの浮き袋は魚の種類ごとに音波の反響の仕方が変わるので、その差を見分けることで魚の種類を特定できるのです。
もちろん、浮き袋の反響パターンを見ることでシシャモの群れなのか、タラの群れなのかも識別できます。
研究主任のニコラス・マクリス(Nicholas Makris)氏によると「タラには大きな浮き袋があって、ビッグベンの鐘のように低い共鳴音を発するのに対し、シシャモの小さな浮き袋はピアノのハイトーンのように響く」といいます。
これを踏まえて2014年のデータを新たに分析した結果、全長10キロ以上にわたる最大2300万匹のシシャモの大群が捉えられました。
それと同時に約250万匹が集まったタラの群れも確認されています。
そして両者の集団がバレンツ海でぶつかったとき、わずか数時間のうちにタラの集団がシシャモの大群の半数におよぶ1000万匹以上を食い尽くしたことが判明したのです。
これは非常に驚くべき結果であり、マクリス氏も「これほど大規模な捕食者と被食者の相互作用を目の当たりにしたのは初めてです」と話しています。
ただそんな短時間でこれほどのシシャモが食べられるのだとすると、種の存続に重大なダメージが出るのではないでしょうか?
しかしこれについてマクリス氏は「まったく心配ない」と指摘します。
というのも、北極圏からノルウェー沖を毎年移動するシシャモの大群は数十億匹という膨大な数がいるので、1000万匹以上が食べられたとしても、それは全体の約0.1〜0.2%が減ったに過ぎないのです。
それくらいの損失であれば、種の存続にとって何の問題もありませんし、新たな産卵によってすぐに個体数が戻ります。
今回の結果は、自然界での捕食イベントが私たちの想像する以上にダイナミックに起こっていることを教えてくれるものです。
下記の表現は、日本語として正しくありません。
「大群の半数におよぶ1000万匹以上を食い尽くした」
「~し尽くす」という表現を使う場合には、残りがないことを意味します。しかしここでは、大群の半分でしかなく、数も曖昧でしかない状況です。よって、「食い尽くした」という表現に誰もが違和感を持ちます。状況を誇張したいのであれば、せめて、「食い荒らした」くらいの表現にしておくのが適切ではないでしょうか。
一考いただけますと幸いです。