「サケ帽子」の流行が再燃か?
最初にサケ帽子を再発見したのは、地元の写真家であるジム・パソラ(Jim Pasola)氏でした。
同氏は10月26日に自身のFacebook上で、死んだサケを頭に乗せているシャチの写真を公開しています。
それがこちら。
それから野生シャチの保護団体「Wild Orca」の研究者であるデボラ・ジャイルズ(Deborah Giles)氏も、サウス・プジェット・サウンドで同様の光景を目撃することができました。
「私たちはサケを頭に乗せている1頭のシャチを目にしました。とても興味深い光景で、以前に個人的に同じ行動を目にして以来、久しぶりに見ることができました」とジャイルズ氏は話します。
別々の日時にサケ帽子が見られていることから、同海域に暮らすシャチの群れの間で80年代ファッションが再燃し始めているのかもしれません。
またシャチの寿命を考慮すると、約40年前にサケを帽子にしていたのと同じ個体群によって流行が再び持ち出された可能性もあるといいます。
シャチの寿命は人間と同等であり、平均でも50年から90年ほど生きるとされています。
と考えれば、40年前に10〜20代だったシャチたちが老年期に入って、若かりし頃のファッションを再びやってみたと考えてもおかしくありません。
それから高齢に差しかかったシャチたちが「サケ帽子」のファッションを今の若い世代に伝えているとも考えられます。
なぜ「死んだサケ」を頭に乗っけるの?
しかしそれと同時に、なぜシャチが死んだサケを頭に乗せるのかという謎は解けていません。
ただ「全く見当がついていないわけでもない」とジャイルズ氏は言います。
まず一つの可能性は、少し残虐ですが、これがシャチたちの遊びの一環であるという説です。
シャチは狩りの学習をする中で、しばしば獲物を手荒く扱うことがあります。例えば、アザラシを狩る際に、無駄に空中に放り投げたり、海面に叩きつけたり、水中でもてあそんだりするのです。
これと同じように、死んだサケを頭に乗せて遊んでいる可能性があります。
他方、もう一つの仮説として、間食用にサケをストックしている説も挙げられています。
これは生息環境にサケが大量繁殖し、餌資源として余りある状態になっているときに起こり得ます。
サケの資源が十二分にあれば、とりあえずお腹いっぱいになるまでサケを食べてもまだ余分な量があります。
そこで今のうちに仕留めておいて頭の上に乗せておけば、小腹が空いたときにすぐにサケにありつけるわけです。
この説が正しいのなら、ファッションというより間食を持ち運んでいる感覚に近いかもしれません。
実際にこの仮説は現在のサウス・プジェット・サウンドの状況と見事に一致しているといいます。
ジャイルズ氏によると、サウス・プジェット・サウンドの海域ではサケが豊富に繁殖しており、「大豊作の状態にある」という。
この仮説はまたシャチ集団に見られる別の行動ともマッチします。
それはシャチが海洋哺乳類のような大型の獲物を仕留めた際、その場ですぐ食べずに、小脇に抱えるようにヒレの下に挟んで持ち運ぶ行動です。
しかし海洋哺乳類に比べて、サケは小脇に挟み込むにはあまりに小さすぎるので、代わりに頭の上に乗っけているのだと考えられます。
いずれの説が正しいのか(あるいは全く別の目的でサケ帽子を被っているのか)はまだ定かでありません。
ですがジャイルズ氏らはすでに、サケ帽子を被るシャチたちを追跡調査する計画を進めています。
80年代当時は調査機器が進歩しておらず、シャチの追跡が困難でしたが、現在は小型カメラやタグ付け、ドローンや音響調査など、高度な科学技術が発達しており、シャチ集団の継続的な追跡も可能です。
果たして、シャチたちは何の目的でサケを頭に乗せているのでしょうか?
続報に注目が集まります。