霊長類の祖先は「双子出産」がスタンダードだった⁈
研究チームはここ数年、霊長類の産子数(1回の出産で産まれる子の数)がどのように進化してきたのかを調査してきました。
今日、ヒトを含む霊長類は基本的に1回の出産で1匹の子を産むことがスタンダードとなっています。
その一方で、同じ哺乳類でもイヌやネコは1回に複数匹の子供を産むことが普通です。
このように1回の出産で1匹の子を産むグループを「単胎動物」、1回の出産で複数匹の子を産むグループを「多胎動物」と呼びます。
哺乳類全体を見渡すと、単胎動物よりも多胎動物の方が一般的であることがわかります。
では、ヒトを含む霊長類のグループはその始まりからずっと「1回の出産につき1頭」を主流にしてきたのでしょうか?
そこでチームは今回、霊長類の産子数の進化史を再構築するために、哺乳類全体の系統樹において、できるだけ多くの種の既知の産子数をマッピング(霊長類155種および他の哺乳類791種を網羅)。
それぞれの種の出生時と成体時の平均体サイズ、妊娠期間などのデータにも注目しながら、数学的アルゴリズムを用いて、哺乳類の各グループに見られる産子数の特徴を比較分析し、そこから産子数がどのように変遷してきたかを推定しました。
その結果、多くの哺乳類においては1回で出産する子の数が系統的に保存されており、近縁種の間でもよく似ていることが示されています。
例えば、イヌ科やネコ科のグループは祖先の系統においても変わらず、1回に複数匹を出産する多胎動物であることがわかりました。
ところがヒトを含む霊長類のグループにおいては異なる傾向が見つかっています。
霊長類の現生種を見ると、ヒトや、その他のチンパンジー、ゴリラ、オランウータンなどの類人猿は基本的に1回に1頭の子供を産んでいます。
他方で、キツネザルやロリス、ガラゴ、南アメリカのマーモセットやタマリンといった小型の霊長類には、ほとんど決まって双子を出産する種がいました。
では、最初期の霊長類においては「1回に1頭を出産」と「1回に2頭を出産」のどちらが主流だったのでしょうか?
それを系統樹から分析してみると、約6000万年前にいた霊長類の祖先は1回につき平均1.6〜1.7頭を出産している可能性が高いと判明。
つまり、このことから霊長類の出産は当初「1人っ子」よりも「双子」の方ががスタンダードであったことが示唆されたのです。
最初の霊長類が誕生したのは、恐竜がいなくなった直後に当たる約6500万年前とされています。
ですから霊長類のグループはその始まりから「双子出産」が基本であり、むしろ1回に1頭しか産まない方が珍しかったと考えられるのです。
では逆に、霊長類の中で「1回の出産につき1頭」の特徴が進化したのはいつ頃のことだったのか?
それを今回の系統樹から推定すると、約5000万年前には一部の霊長類の中で、単胎での出産が主流になっていることが示されました。
多胎から単胎に切り替えることで、母体の中での子供の脳の成長がよりよく促され、脳が大きくなる「大脳化(encephalization)」が起こりました。
おそらく、単胎へと切り替えた一部の霊長類たちは知能を高める方向へと突き進み、その系統からヒトを含む類人猿が誕生したと考えられます。