記憶と感情に働きかける音楽の力
映画を観ていて、BGMが場面の感動や緊張感を引き立てる経験をしたことはありませんか。
例えば、主人公の成功シーンに力強い音楽が流れると、そのシーンが特別な意味を持つように感じられます。
映画を見終わってしばらくしてからも、その音楽を聴くたびに、映画の特定のシーンを思い出して気持ちが昂るはずです。
このように、音楽は感情や記憶に深く働きかける力を持っています。
それは、音楽が脳の感情を司る扁桃体や記憶を形成する海馬といった部位を活性化させるためです。
これまでの研究でも、音楽がその時の感情に影響を与えたり、さらに過去の出来事を想起させる強力な引き金になったりすることが示されています。
そこでレン氏ら研究チームは、音楽にこの2つを組み合わせたような効果があるかもしれないと考えました。
つまり、「音楽を使って、呼び起こされた記憶に感情的な上書きをする」という仮説を提案したのです。
この仮説は、既存の「記憶は再生時に更新される」という理論を基盤にしています。
この理論によれば、記憶は再生されるたびに一時的に不安定な状態になり、新しい情報や感情的要素が加えられる可能性があるのです。
では、音楽はそのような可能性を秘めているのでしょうか。
研究者たちは、この仮説を検証するために、実験的に調べました。