AIによって設計された素材
従来のアスファルトは年数が経つと酸化や水分、温度変化による劣化が進み、微小な亀裂がやがて道路の穴につながります。
道路の穴は車両の損傷や交通渋滞、事故の原因となり、修理に多額の費用がかかる社会問題です。
一方で、アスファルトの主要成分であるビチューメン(石油由来の有機化合物)は、その分子構造が複雑で、これまで分子レベルでのシミュレーションが大変困難でした。
実験とコンピューター解析を組み合わせて、新たに「自分でひび割れを治せる」アスファルトを生み出す研究が進められています。
特に最近では、バイオマス廃棄物(藻類や樹木の廃材、廃食用油など)を利用することで、石油への依存度を減らしながら、道路の修復機能を付与しようというアプローチが注目を集めています。
本研究の大きな特徴は、AIと大規模なコンピューターシミュレーションを活用し、ビチューメンのような「複雑な有機分子の混合体」を効率的にモデル化した点です。
研究では、ガスクロマトグラフィー質量分析(GCMS)の実験データをもとに、ビチューメンやバイオオイルなどの複雑な混合物をできるだけ少数の代表的な分子で表現する方法を提案しました。
これにより、人間の経験や勘だけに頼らず、機械学習が実験データから自動的に最適な分子選択を行ってくれます。
さらに、その代表分子を使って分子動力学シミュレーションなどを行うことで、「どのような組成がひび割れを起こしにくいか」「自己修復機能を最大化するための分子構造は何か」といった疑問に、従来よりも高速かつ精密に答えを得られるようになっています。
こうしてAIの助けを借りて誕生したのが、自己修復機能を持つアスファルトです。
鍵となるのは、髪の毛よりも小さな植物由来の「胞子」にリサイクル油を詰め込み、アスファルトの中に埋め込む技術です。
道路表面に微小なひび割れが入ると、この胞子から放出される油がビチューメンを柔らかくし、亀裂を自動的に“縫い合わせる”ように補修します。
さらに、バイオマス廃棄物や褐藻類、食用油などを有効活用できる点も注目すべき特徴です。
石油への依存度を下げながら、環境にやさしいインフラを実現する可能性があるのです。
研究者たちはAIの出力した設計図に従って、自己修復アスファルトのプロトタイプを作成し、性能テストに臨みました。