44.3億年前の月の固化スイッチ

今回の研究チームが注目したのは、KREEP に多く含まれる「ルテチウム (Lu)」が時間の経過とともに放射性崩壊して「ハフニウム (Hf)」に変わる仕組みです。
ルテチウムは希土類元素(REE)の一種であり、マグマが固まる段階で他の鉱物に入りにくいため、残渣(KREEP)に濃縮されやすい性質を持っています。
ルテチウムとハフニウムは、太陽系が誕生したばかりのころには同じ割合で存在していたと考えられますが、時間がたつにつれてルテチウムが放射性崩壊し、その度合いによって岩石が結晶化した年代がわかります。
研究者たちは、アポロ計画で持ち帰られた月の岩石に含まれるジルコンという鉱物を超高精度で分析しました。
ジルコンは地球でもよく放射年代測定に使われる頑丈な鉱物で、いったん結晶化すると内部に時間の“痕跡”を封じ込めてくれます。
ここに含まれるルテチウムとハフニウムの比率を、最先端の手法で詳しく調べることで、月のマグマ・オーシャンがどの時期に固結し、KREEP が形成されたかを推定したのです。
その結果、月が固まりきる過程のほぼ終盤で KREEP が形成され、結晶化の完了時期は今から約44.3億年前にまでさかのぼる可能性が高いことが示されました。
これは、地球がまだ多くの天体衝突を受けていた時期と重なる年代であり、月の初期進化がどのように進んだのかを具体的に示す重要な手がかりです。
さらに今回の分析では、KREEP は月の裏側(南極―エイトケン盆地など)にも分布している可能性を強く示唆する結果が得られ、今後の探査による直接サンプル分析でさらに裏付けられることが期待されています。