王じゃなくて「馬」でもいける?
お金もない、新幹線や飛行機もない時代に、遠方の田舎からロンドンやパリに行くのは至難の技でした。
しかし田舎にも頸部リンパ節結核を患っている患者はごまんといます。
そこである突飛な方法でのロイヤルタッチが行われたのです。
それは17世紀後半、スコットランドのアナンデール地域でのこと。
そこに患部を舐めることで頸部リンパ節結核を治してしまう「馬」がいると話題になったのです。
スコットランドの活動家であったアレキサンダー・シールズは日記にこう記しています。
「目撃した人から聞いたのだが、アナンデールの麓(ふもと)かどこかに特別な馬がいて、その馬が患部を舐めると王の病が治ってしまうそうだ。
その馬にあやかろうとして、方々から人々がやってくるとのことだ」
これはおそらく、僻地(へきち)に住んでいてロンドンまで行けない農民たちが苦肉の策として考えついたロイヤルタッチの代案だったと思われます。
しかし、遠方まで行くお金もない病人たちにとっては、この馬は心強い存在だったでしょう。

またフランスでも風変わりなロイヤルタッチの慣習が生まれていました。
現役の王様は職務のために忙しかったり、ロイヤルタッチの儀式もそんなに頻繁にはしないため、受けたいときに受けることが困難でした。
そこでフランス人たちは「生きた王がダメなら、死んだ王でもいけるんじゃないか?」と考えたのです。
彼らは亡き王の体に触れさえすれば、その神秘的な力で病を癒してくれると主張し始めました。
ロイヤルタッチの対象に選ばれたのは、ルイ9世(1214〜1270)の亡骸です。
ルイ9世は亡くなった後にカトリック教会から聖人とされた王であり、それゆえに神秘的な力が宿っていると信じられました。
そうしてルイ9世の亡骸が聖遺物として収められている礼拝堂にヨーロッパ中から人々が押し寄せて、白骨化した腕に触れるようになったのです。

馬にせよ、ルイ9世の亡骸にせよ、その癒しの効果がどれほどのものだったかはわかりません。
しかしロイヤルタッチの慣習は人々の間で高い人気を誇り、イギリスやフランスを中心に700年以上も続けられました。
ただ中世の神秘時代から近代的な啓蒙時代へと脱却するにつれて、こうした科学的な証拠のない治療は次第に批判されるようになります。
中でもフランスの啓蒙家であったヴォルテール(1694〜1778)などは、ロイヤルタッチの痛いところを巧みに突きました。
彼は「ルイ14世の愛人は毎夜、王の手で散々愛撫されたにも関わらず、頸部リンパ節結核を発症したではないか」と批判したのです。
というわけで、ロイヤルタッチの慣習は徐々に廃れていき、歴史の闇へと消えていきました。
> ロイヤルタッチを行う「裏の目的」とは?
これの答えは??
想像してたアレですか?
体制の維持って言ってたでしょう