平面で極薄、望遠鏡に革命を起こすレンズ
平面で極薄、望遠鏡に革命を起こすレンズ / Credit:The future of telescope lenses is flar
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平面で極薄、望遠鏡に革命を起こすレンズ (3/3)

2025.03.05 21:00:54 Wednesday

前ページ“紙のようなレンズ”の実力がとんでもない

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なぜ平面レンズで遠くがみれるのか?

なぜ平面レンズで遠くがみれるのか?
なぜ平面レンズで遠くがみれるのか? / Credit:Canva

平面レンズで遠くを見通せるようになる背景には、「の屈折」を利用する従来の厚い曲面レンズとは異なる、“回折”の活用があります。

一般的な光学レンズは、物理的にカーブしたガラスやプラスチックによって光を曲げ(屈折させ)焦点を結びます。

これを高い性能で実現するには、どうしても厚みと重さが増し、多数のレンズ要素を組み合わせて色収差を補正しなければなりません。

一方、新たに開発されたフラットレンズは、表面に刻まれた微細な同心円状の“段差”によって光を回折させるという原理を採用しています。

フレネルゾーンプレート(FZP)も同じく回折を用いて薄型化を図っていましたが、FZPは単純な同心円のパターンであるため、波長によって異なる角度で光が曲がり、色のにじみ(色収差)が大きくなってしまうという弱点がありました。

そこで研究チームが採用しているのが、マルチレベル回折型レンズ(MDL)と呼ばれる複雑な段階構造です。

これは、単に“透明”と“不透明”の二値的なパターンではなく、多数の高さレベルを用いて光の位相をきめ細かく制御します。

これによって、異なる波長の光をほぼ同じ場所に集められるようになり、広い波長範囲にわたって鮮明でカラー再現性の高い画像を得られるわけです。

さらに、この多層パターンを正確に設計するためにインバースデザイン(逆設計)という計算手法が活用されています。

これは、膨大な計算資源を使って目標とする結像性能に合わせた微細構造を自動的に導き出すもので、従来の「設計→試作→修正」を繰り返す方法とは異なるアプローチです。

こうした高度な設計と微細加工技術が組み合わさることで、わずかな厚みしかないレンズでも「遠くを、しかもカラーで鮮明に見る」ことが可能になりました。

大口径のレンズはより多くの光を集められるため、遠くの暗い天体を撮影するほど重要となります。

その一方で、大きくなるほど従来ならレンズ全体が厚く重くなるという宿命を負ってきました。

平面レンズはその矛盾を回折構造で解消しており、航空機や人工衛星など重量制限が厳しい場面でも、大きな集光力と解像力を実現できるポテンシャルを秘めています。

こうした特性こそが、平面レンズで遠くを見通す鍵になっているのです。

今回の研究成果は、これまで「重くて大きい」というイメージが強かった望遠鏡レンズの常識を覆す可能性を秘めています。

超薄型でありながら大口径を実現できるフラットレンズは、将来的に宇宙望遠鏡や航空機・人工衛星など、重量やスペースに厳しい制約がある場面で大きな恩恵をもたらすでしょう。

特に宇宙開発の分野では、ロケットに搭載できる光学機器の総重量を抑えることが観測計画の成否を左右することも多く、重量削減という観点から今回の成果は大きなインパクトを持ち得ます。

将来的には、ナノファブリケーション技術や設計手法の進歩とともに、フラットレンズはさらなる高性能化と量産化に向けて発展する可能性があります。

もし大規模な生産体制が整えば、一般の人々の手にも届くような平面型の望遠鏡やカメラが登場するかもしれません。

そうなれば、宇宙だけでなく、私たちの“遠くを見たい”という願望を多角的に満たす、革新的な道具として社会を変えていくでしょう。

今後の研究と技術開発がどのように進化を遂げていくのか、大いに注目したいところです。

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平面で極薄、望遠鏡に革命を起こすレンズ (3/3)のコメント

ゲスト

キヤノンやニコンが前世紀末に実用化して販売していた回折光学素子?

 

両者は回折光学を利用しています。

DOレンズ:色収差補正用途。単体では使えない。
MDL:超薄型で超軽量の非常に薄い1枚のレンズ。単体でも使える。

MDLは、膜のようなレンズであることが革新的です。

MDLを使えばフレネルレンズやレンチキュラーレンズを用いた簡易ホログラムより、遥かに高精細かつ高品質な立体視が可能になります。将来的にスマホ、VR/ARに搭載され実用的なホログラム用途として利用される可能性もありますね。

ゲスト

野鳥の撮影では望遠レンズがよく使われ、大砲などと呼んでいて、それでマウントを取る輩もいます。短く、軽く、安くなると助かります。

ゲスト

VRデバイスも進化するね

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