血圧降下剤「アムロジピン」は人間のADHDにも効果があるかもしれない

次に研究者たちは、アムロジピンが脳へどの程度作用しているのかを確かめるため、血液脳関門(BBB)の透過性を評価しました。
ゼブラフィッシュ成体やラットの脳内を解析した結果、投与後の脳組織からアムロジピンが検出され、脳神経の活性化指標であるc-Fosが減少していることが確認されました。
従来、アムロジピンはBBBを通りにくいとされていましたが、条件次第では中枢に十分作用しうることが裏付けられました。
さらに、ヒトを対象とした大規模データ解析にも踏み込み、ゲノムワイド関連解析(GWAS)の情報をもとに遺伝的な因果関係を探る「Mendelian randomization(MR)」手法を駆使して、アムロジピンが結合するカルシウムチャネル関連遺伝子変異の解析を行いました。
その結果、これら遺伝子変異をもつ人はADHDリスクが有意に変化する可能性が示され、アムロジピンの作用機序とADHDとの関連が支持される結果が得られました。
加えて、英国のバイオバンク(UK Biobank)が蓄積している大規模な健康・遺伝データにおいても、アムロジピン服用者はADHDリスクに関連するとされる“気分の乱高下”や“リスキーな行動”の自己報告率が低い傾向が確認されました。
同じ降圧薬でもアムロジピン以外の種類にはそのような傾向が見られなかったことから、単なる降圧効果だけでは説明できない脳機能への影響があるのではないかと考えられています。
こうした一連の実験とデータ解析の結果から、アムロジピンは血圧低下だけでなく、ADHD症状の改善にも寄与しうる薬剤として大きな可能性を示しました。
安全性が確立され、広く使用されている降圧薬がADHDの中核症状に作用しうるという事実は、実用的な観点からも大きなメリットがあります。
既存の治療薬に十分応答しない患者さんや副作用が強く出るケースに対して、新たな選択肢となる可能性があると期待されます。
今後は、より大規模な臨床試験を経て、アムロジピンがどの程度ADHD治療に寄与できるかが明らかにされていくでしょう。
研究者たちは本研究の成果を足がかりに、同じくL型カルシウムチャネルを標的とする他の降圧薬や新しい分子の開発にも着目しており、ADHD治療の幅をさらに広げることが期待されています。