三重スリット実験で見えた「光のループ経路」
三重スリット実験で見えた「光のループ経路」 / Credit:Omar S Magaña-Loaiza et al . Nature Communications (2016)
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三重スリット実験で見えた「光のループ経路」

2025.03.07 21:00:38 Friday

アメリカのロチェスター大学(UR)など複数機関の共同研究によって、光がわずか数百ナノメートル幅の三つのスリットを通過する際に、隣接するスリットの近くへまるでループを描くかのように回り込みながら、干渉パターンを形成する不思議な現象が初めて明確に示されました。

従来の二重スリット実験以上に複雑な経路の重ね合わせが観測されたことで、量子力学の根幹であるボルン則があらためて検証されると同時に、近接場(ナノスケールの電磁場)の寄与が思いのほか大きいことも判明し、量子光学の理解を大きく進める結果となりそうです。

いったいこの“三重スリット”の実験は、私たちの常識をどのように覆すのでしょうか?

研究内容の詳細は『Nature Communications』にて発表されました。

Exotic looped trajectories of photons in three-slit interference https://doi.org/10.1038/ncomms13987

二重スリットを超えて—量子の深淵を覗く三つ目のスリット

三重スリット実験で見えた「光のループ経路」
三重スリット実験で見えた「光のループ経路」 / 三重スリット構造の模式図と、光が“ループ軌道”をたどるイメージ。 左右に並んだ3本の細いスリットが金属薄膜に空けられており、真ん中の赤いラインは光がAというスリット近傍からBやCのスリット方向に“回り込む”ように進むルートを描いています。通常の二重スリット実験では考えにくい複雑な経路ですが、金属表面で強く励起される『近接場(表面プラズモン)』によって、こうした微小な“寄り道”経路が大きくなり、観測可能な干渉パターンとして現れるようになります。幅が数百ナノメートル(髪の毛の太さよりずっと細い)という極めて小さなスリット構造と、光が波として振る舞う性質が組み合わさることで、量子力学の新たな一面が見えてくるのです。/Credit:Omar S Magaña-Loaiza et al . Nature Communications (2016)

がスリットを通過するときに見せる干渉パターンは、量子力学の核心的な性質を示す代表例として知られています。

19世紀にトマス・ヤングが行った二重スリット実験は、光が「粒子でありながら波として振る舞う」ことを直感的に示すものでしたが、その後、光子だけでなく電子や原子などでも同様の干渉パターンが観測されるようになりました。

これらは重ね合わせ原理と呼ばれる量子力学の基本法則に基づいて理解されており、検出される確率分布を支配するのがボルン則です。

一方、スリットが三つになると、単純に「3つの経路の重ね合わせ」を考えただけでは説明できない追加の干渉項が生じる可能性があると指摘されてきました。

たとえば光がとても細い三つのスリットを通るとき、「ただまっすぐ進むだけ」ではなく、スリット周辺の特殊な電磁場(近接場と呼ばれます)によって、いわば“寄り道”をするように回り込む経路が生まれることがあります。

Aというスリットから出た光が、その近くにあるBやCのスリット付近へ少し回り込み、また別のスリット方向へ戻ってから最終的に先へ進む、といったルートが考えられるのです。

こうした微小な回り道は理論上存在するとされてきましたが、その確率はごくわずかで、従来の方法では観測が困難だとされていました。

そこで今回研究者たちは、ナノスケールで光の近接場(表面プラズモン)を強められる三重スリット構造を用いて、微小なループ軌道を直接検出することにしました。

次ページ三重スリットでループする光たち

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