総合レジャー施設だった古代ローマの入浴施設

古代ローマの公衆浴場、すなわち「テルマエ」とは、単なる入浴施設などではありません。
テルマエは一大社交場であり、文化の坩堝(るつぼ)でした。
さて、そもそもテルマエとは何でしょうか。
それは現代日本のスーパー銭湯とは異なっているものの、どこか似たものです。
ローマ人にとって入浴は単なる身だしなみではなく、人生を豊かにする神聖な儀式であったのです。
風呂に浸かり、友と語らい、詩を詠み、時には政談を交わす。まことに雅な日常ではないでしょうか。
例えば、西暦212年にカラカラ帝によって建設されたカラカラ浴場は、驚くべき規模を誇ります。
全長225メートル、幅185メートル、高さ38.5メートルという壮麗な建築。
もはや宮殿といっても過言ではないでしょうか。
内部には冷水浴室(フリギダリウム)、温水浴室(テピダリウム)、熱水浴室(カルダリウム)が配置され、訪れる者はこれを巡り、心身ともに清めます。
テピダリウムやカルダリウムで体を温めて毛穴を広げた後にフリギダリウムで汗腺を閉じるという入浴法が一般的であり、現在のサウナに近い入浴法を取っていました。

しかし、テルマエの真骨頂は風呂だけではありません。
その周囲には庭園が広がり、図書室があり、運動場までも備えられていたのです。
ローマ市民たちはここで本を読み、体を鍛え、友と語らい、時には哲学論争すら繰り広げます。
テルマエとは、まさしく「知」と「肉体」が交差する場でした。
かくして、古代ローマのテルマエは、ただの風呂ではなく、一つの小宇宙であったのです。