驚愕の正答率格差! 訓練がもたらす錯覚への耐性
今回の研究では、放射線科医(報告放射線技師や研修医など含む)44名と大学生107名に4種類の幾何学的な視覚錯覚(エビングハウス、ポンゾ、ミュラー・リヤー、そしてシェパードのテーブル)を提示しました。
高校の美術の授業などでも登場するこれらの錯覚は、同じ大きさの図形でも周りの形や線、向きによって「大きさ」や「長さ」が変わったように感じられるのが特徴です。
研究チームは、対象者が画面に表示された図形ペアを見て、「どちらが大きいか・長いか」を瞬時に判断する課題を行わせました。
ここでユニークなのは、医療の現場で日々「骨折線や腫瘍の痕跡」を探しているプロフェッショナルと、まだ専門訓練を十分に積んでいない学生とを直接比較した点です。
さらに、同じ錯覚でも「わざと複雑な背景」を強調したり、サイズの差をわずか数%にしたりと、かなりシビアな条件が設定されていました。
こうすることで、どの程度の「集中力」や「周辺ノイズを切り離す力」が必要なのかを、より客観的に測定できるよう工夫されています。
結果は非常に興味深いものでした。
たとえばエビングハウス錯視の条件では、専門家グループが約50%近い正答率を示したのに対し、学生グループはおよそ30%ほどしか正解できなかったというデータがあります。
この差は約20ポイントほどあり、錯覚課題においてはかなり大きな意味を持つ数値です。

また放射線科医たちは、周りの図形によってサイズ感が歪んで見えてしまう3種類の錯覚(エビングハウス、ポンゾ、ミュラー・リヤー)で、総じて学生グループよりも高い正答率を示しました。
一方、図形の「向き」が錯覚を生むシェパードのテーブルでは、両グループに大きな差は見られませんでした。
つまり「不要な文脈」や「紛らわしい線」を無視して狙いどころを見抜く訓練が、錯覚に惑わされにくい目を育てている可能性が示唆されます。
本研究は、「ある分野で習得した集中力や文脈の取捨選択の技術」が、広く「錯覚を克服する力」として働く可能性を提示し、私たちの「見る力」がどこまで伸ばせるのか、新たな扉を開いたといえるでしょう。