現代ニワトリに蘇る「恐竜の羽」――最先端実験が暴く進化の逆再生
現代ニワトリに蘇る「恐竜の羽」――最先端実験が暴く進化の逆再生 / Credit:In vivo sonic hedgehog pathway antagonism temporarily results in ancestral proto-feather-like structures in the chicken
biology

現代ニワトリに蘇る「恐竜の羽」――最先端実験が暴く進化の逆再生

2025.04.01 22:00:01 Tuesday

「鶏が恐竜の羽を生やす」──そんな一見ありえない話が、スイスのジュネーヴ大学(UNIGE)で行われた研究によって実験的に示唆されました。

古代の恐竜から現代の鳥へと繋がる進化の道筋には、複雑な羽毛の獲得が大きく関わっていると考えられています。

ところが、ある分子シグナル(ソニックヘッジホッグ:Shh)を一時的に抑えるだけで、鶏の羽毛がまるで祖先的な“原始羽毛”に近い姿へと巻き戻るかのような現象が観察されたというのです。

まるでタイムマシンで恐竜時代を訪れたかのように、長い進化の歴史を、たった一度の処置で少しだけ遡ったようにも見えるその光景には驚きが隠せません。

では、この“羽毛の逆行”ともいえる現象はどのように起こり、何を意味しているのでしょうか。

研究内容の詳細は学術誌『PLOS Biology』にて公開されています。

In vivo sonic hedgehog pathway antagonism temporarily results in ancestral proto-feather-like structures in the chicken https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003061

恐竜と鳥をつなぐ羽毛の謎

現代ニワトリに蘇る「恐竜の羽」――最先端実験が暴く進化の逆再生
現代ニワトリに蘇る「恐竜の羽」――最先端実験が暴く進化の逆再生 / この図は孵化後7日目のヒナの体に生えている2種類の羽毛を示しています。 左側または中央に見られる硬い羽軸(中心部)がある羽毛は、飛行や体の輪郭を形成するための「ペナシアス羽」で、精巧な構造を持っています。 一方、羽軸がはっきりしない、ふんわりとした柔らかい羽毛は、断熱や保護に役立つ「プルムラシアス羽」を表しています。 この図から、同じヒナでも異なる機能を持つ羽毛が地域ごとに存在することが一目でわかり、進化の多様性や発生の仕組みの複雑さが直感的に理解できます。/Credit:In vivo sonic hedgehog pathway antagonism temporarily results in ancestral proto-feather-like structures in the chicken

私たちが想像する恐竜というと、つい「巨大でゴツゴツした皮膚をもち、地を踏みしめる爬虫類」というイメージを抱きがちです。

しかし近年、中国・遼寧省などの地層から相次いで出土した化石は、一部の恐竜が“羽毛”や“羽毛に近い糸状の構造”をまとっていた可能性を示しています。

とくに小型肉食恐竜の化石には、フサフサとした毛状の痕跡が残されており、「恐竜と鳥の境目はどこなのか?」という大きな謎を突きつけてきました。

そもそも鳥の羽毛は、森で見かける樹木の枝のように何重にも分岐し、一本一本に細かなフック状構造までもつ、とても精巧なつくりです。

ところが昔はもっとシンプルな“糸状の毛”が出発点だったと考えられており、「なぜそこから現代の鳥のように高度に分かれた羽毛へと進化したのか」が、恐竜から鳥への重要なテーマとなってきました。

これまでの研究で、羽毛の形成には「ソニックヘッジホッグ(Shh)」「Bmp」「Wnt」など、複数の遺伝子シグナルが関与していることが明らかになっています。

なかでもShhは、細胞の分裂や形づくりを積極的に促す“アクセル役”のように機能するため、Shhが高いほど羽毛の分枝が活性化し、低いほどシンプルな形で止まる可能性が指摘されてきました。

ただし「実際に生きた鶏胚において、Shhを弱めたらどんな羽毛が生えてくるのか」を系統的に確かめるのは難しく、これまでは小さな組織片を培養して操作する程度にとどまっていたのです。

とはいえ、ニワトリを含む鳥類は、獣脚類恐竜から分かれた一系統であり、いわば“恐竜の子孫”といえる存在です。

もし現代の鶏胚でShhシグナルを人為的にダウンさせたら、遠い祖先を思わせるような原始的な形態に近づくのか──それはまるで時空をさかのぼるような壮大な実験にも思えます。

実際に、中国・遼寧省の化石に見られる“毛のある恐竜”の発見を機に、祖先の毛状構造と今の分岐した羽毛の連続性を研究する動きが活発になってきました。

別の実験では鶏の足の鱗(うろこ)を羽毛化する報告もあり、「Shhシグナル操作が鳥の外見を大きく変えうる」という可能性が広がっていたのです。

そうした流れの中で、「ならば鶏の胚全体でShhを弱めたら、羽毛そのものはどうなるのか」という問いは、いまだ解かれていない大きな核心でした。

さらに、鳥の羽毛はヒトの髪や哺乳類の体毛などともルーツが一部重なるとされており、“分枝の仕組み”を知ることで、動物の外見形成全般を読み解く手がかりにもなるかもしれません。

そこで研究者たちは今回、鶏胚を使ってShhシグナルを一時的に抑え、羽毛がどこまでシンプルな形に寄り戻されるのか、そしてその後回復するのかどうかを詳しく探りました。

次ページ鶏が恐竜時代の羽毛を再現する

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